日本のユーザーに不安を抱かせている最大の懸念は、Temuからユーザーデータが流出する可能性があるという話だ。そもそも、Temuなどのアプリはユーザーのスマホからさまざまな個人情報を吸い上げている。Temuの場合、日本人のユーザーデータは「Microsoft Azure」などに保存されるが、それがどこの国に設置されているのかは分からない。ちなみに保存されたデータは、他の国にも転送されるとTemuは認めている。
Temuによれば、オンラインサイトやアプリの利用者は以下のようなデータを収集される。位置データ(IPアドレスなど)、デバイスの製品番号、オペレーティングシステム情報、言語設定などに加えて、ユーザーが閲覧したページ、ページでの滞在期間、どこからページに到達したか、ページとのやりとり、Temuが送付したメールの開封の有無、メール内のリンクのクリックの有無などだ。
また、Temuの事業運営を支援する第三者(ホスティングやマーケティングの会社など)にも情報が共有される。さらに「ターゲットを絞った広告を目的として、お客さまの個人情報を共有」するという。
Temuの姉妹アプリである「Pinduoduo」(共同購入ができるECサイト)は、2023年に「Google Play」から排除された。アプリに情報を盗み取るマルウェア(悪意のある不正なプログラム)が組み込まれていたことが発見されたからだ。このニュースを受け、Pinduoduoはアプリの制作に関わったエンジニアチームを解散したが、元メンバーの多くがTemuの開発チームに加わったと言われている。
他のアプリでも情報は吸い上げられるが、Temuについて心配なのは、中国で2017年に施行された「国家情報法」だ。その第7条では「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持や援助、協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守る義務がある」と記されている。中国企業であるPDDは、Temuの関係事業者、サプライヤーのデータなども中国当局に提供する義務がある。つまり、日本人のユーザーデータも当局が手に入れることが可能ということだ。
とにかく話題が尽きないTemuだが、日本の当局がきちんと調査をすべきかもしれない。ユーザーの不安を払拭(ふっしょく)するような動きを見せてほしいものだ。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
「KADOKAWA」「ニコ動」へのサイバー攻撃、犯人と交渉中の暴露報道は“正しい”ことなのか
「LINEのセキュリティ」は大問題 TikTokと同じ道をたどるのか
中国系企業が日本の“再エネビジネス”に食い込む 「透かし騒動」から見る実態
ようやく制度化「セキュリティ・クリアランス」とは? 民間企業にどう影響するのか
中国出張でPCは“肌身離さず”でなければいけない、なぜ?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング