今回は「出戻り転職」をテーマにあれこれ考えます。
まずは、就職情報サイトのマイナビが実施した調査結果を紹介します。転職経験者の3人に1人にあたる32.9%が「過去退職した会社に戻りたいと思ったことがある」と回答しました。理由として多かったのは「育児などの家庭の事情で転職したが、環境が変わった」「退職前に気が付かなかった良い面に気付いた」などで、転職経験者のうち57.5%が退職した会社の人と「連絡を取っている」と答えたそうです。
出戻り転職、アルムナイ採用、ジョブリターン、キャリアリターン、カムバック制度、退職後再雇用。呼び名はさまざまですが、人手不足解消の手段の一つとして大きく注目されているのが、自己退職した従業員を本人の希望で復帰させる“元鞘雇用”(私はこう呼んでいます)です。
楽天、キリンビール、リクルート、日本郵政グループでは、数年前からその制度を取り入れています。また、7月末には三菱UFJが来年度から「原則書類選考なし、年齢制限なし、再入行時の職種の選択あり」というかなり魅力的な条件で、“元鞘雇用”に踏み切ると発表しました。
元鞘雇用――良いです。とても良い取り組みだと、率直に思います。
なにせバブルが崩壊した1990年代以降、日本企業が進めてきたのは「人間の顔」をみない経営と、働かせ方です。
1999年5月、トヨタの奥田碩社長が日経連の会長に就任し「人間の顔をした市場経済」と「多様な選択肢をもった経済・社会」を活動の理念に掲げ、「解雇は企業家にとって最悪の選択。株価のために雇用を犠牲にしてはならない」と企業の安易なリストラに警鐘を鳴らしました。
しかし、2000年代に入っても企業は「人間の顔」を見ようとしなかった。安い労働力を増やすことで生産性を向上させ、「人の可能性を信じる経営」を置き去りにしてきました。
社員が積み上げた“経験”は、我が社にとって大切なリソースなのに「経験? そんなもの、使いものならん」と50歳になった途端、一斉に在庫一掃セールにかけ「経験より若手でしょ!」と若手至上主義を強めてきました。
人によって経験は違うのですから、唯一無二の経験=暗黙知を結集させることが、創造力の土台になるのにそれを蔑ろにし、さらには、育児経験、留学経験を嫌いました。多様性の視点からも働く人それぞれの「仕事内外の経験や役割の蓄積」というリソースは、企業にとって大きなメリットをもたらすのに。灯台下暗しというか、傍目八目といいますか。
そんな黒歴史の終焉を期待させるのが、元鞘雇用です。人手不足解決の手段としてだけではなく、いったん“我が社の外”に出たよそ者の経験を最大限に生かす組織づくりも徹底してほしいと心から願います。
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