しかし一方で、「転職=訳あり」という古い価値観を引きずっている人もいますし、逆に「1つの会社で働き続けて今の時代に他の環境を知らない罪悪感」を持っているプロパー社員もいるので、元鞘雇用に拒否反応を示す人も少なくありません。
どれもこれも根っこにあるのは嫉妬心ですから、放っておけばいいのかもしれませんが、そうそう簡単に割り切れないのも「人間の性」です。
元鞘雇用で復帰した経験を持つAさん(40代後半、男性)も、以前はプロパー社員の壁に苦悩した一人でした。
某大手企業の営業だったAさんは、38歳の時に上司が変わったことがきっかけで転職。それまで営業としてバリバリがんばっていた彼にとって、予想外の出来事でした。
多分、彼(新しい上司)も私のことが嫌いだったと思いますよ(笑)。ことごとく無視されましたからね。しかも、完璧なまでの数字至上主義者で結果しか見ない人だった。前の上司はプロセスをきちんと定性的に評価してくれたので、新しい顧客を開拓することができました。だから余計にきつくてね。
リーマンショックなどもあって、終電、休日出勤は当たり前、何をやってもうまくいかない感じがしてね。結構、ギリギリでした。
ただ、辞めたのは過重労働が原因じゃない。上司です。ある日、何かが自分の中でプチンと切れてしまったんです。翌日には辞表を出しました。上司は理由も聞かず「あ、そう」って。おかげで、踏ん切りがついて、晴々とした気分で辞められました。
こうした経緯で新卒から務めた会社を去ったAさんですが、数年後に元鞘雇用で元の企業に戻ることになります。Aさんはその時の心情をこのように話しました。
そんな自分が出戻りすることになって、随分と悩みました。自分なんかが戻ってもいいのか、と。
きかっけは、辞めた後も同期とはたまに飲みに行っていて、その時に「カムバック制度ができたから戻ってこい」と言われたことでした。なんだかそれがうれしくて。散々悩んだけど、やっぱり会社が好きだったんでしょうね。しんどいことは300%ある、あって当たり前だって、自分に言い聞かせて、覚悟して出戻りました。
それが結果的に良かった。快く出迎えてくれた社員は想像以上に多かったけど、特に難しかったのが、プロパーの先輩社員との関係です。あからさまに嫌な顔をされたり、新しい提案をしても無視されたり。でもね、そこは自分でなんとかするしかないので、一兵卒のつもりで新人の時にやったことをやりました。
早めに出勤して社内の掃除やらゴミ捨てをやりながら、周りの人の顔や名前や、何がどこにあるかも覚えるようにしました。そうしているうちに一緒にやってくれる人が出てきてくれて、プロパー社員たちの目も変わりました。結局、仕事って人間関係だし、人間関係は自分でどうにかするしかない。自分からドアを開けて、耕すしかない。それが結果的に、自分の評価につながるんです。
出戻りして4年が経ったA氏は、今では若手だけじゃなくシニア社員からもキャリアの相談を受けると「迷わず、いち、にの、さーんで飛び出せばいい。一度会社を出ると、古巣の良さがわかることも多いですから」とアドバイスしているそうです。
いずれにせよ、A氏の経験は人間関係の難しさを物語るものでした。
辞める原因も人間関係なら、続ける背中を押すのも人間関係。元鞘雇用を成功させるのに必要なのは、「私」の半径3メートル世界の他者と質の良い関係を具体的に動いてつくる他ありません。
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