それは組織内における自分の居場所を確立するために必要なプロセスである「組織社会化」を成功させることを意味しています。
組織社会化はよく新入社員の適応に対し用いられる理論ですが、転職や再雇用、元鞘雇用でも組織社会化の成功が大きな鍵を握っています。
新入社員の組織社会化の最大の課題が「役割の獲得」であるのに対し、熟練したキャリアでの再社会化は「良好な人間関係の構築」です。
「所詮、出戻り」と陰口を言われないように、一刻も早く自分の存在価値を知らしめたい気持ちは分かりますが、どんな能力があろうとも周囲といい関係がない限り、その能力が生かされることはありません。
一方、新規加入する“出戻り”を受け入れるメンバーたちは「自分たちを大切に扱ってくれるだろうか?」「自分たちにどんな利益をもたらすのだろうか?」「本当に信頼に値する人物なのだろうか?」と不安を感じているので、新参者の一挙手一投足に注目します。
そういった不安を消すには、「私」が動くしかありません。
つい、私たちは人から信頼されることばかりを考えてしまうけど、人は信頼されていると感じるからこそ、相手を信頼する。そして、その人の人間的魅力、価値観、誠実さや勇気、明るさや謙虚さ、やさしさなどを肌で感じると、「力になりたい」「一緒になにかやりたい」と心の距離感が縮まっていきます。
一方、企業側は「“出戻り”を受け入れるメンバーたち」の不安を消し、出戻り社員の組織社会化を促す対策を取るべきです。
具体的に求められるのは、以下の取り組みです。
その上で、企業のトップは「我が社ならでは取り組み」を考える必要があります。
私が取材したある企業では、新しいプロジェクトを立ち上げ、そこに出戻り組とプロパー組を数人ずつアサインしました。新しいプロジェクトで、前例を気にする必要がないため、出戻り、プロパーに関係なく、目標を達成する必要性に迫られます。
「ポイントは前例がない点です。好き勝手にやっていい。あとは経営側が責任を取ると任せました」(当該企業の社長)
「元鞘雇用=人手不足解消」と考えずに、「相乗効果を生む」ことをゴールに元鞘雇用を続けてください。
どんなにいい新制度を会社が作っても、その制度の恩恵を授かった「人」も、そこで働く「人」も、「変わらない」限り、働く人にとって「良い制度」にはなり得ませんから。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
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