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営業先を「AIが選定」 りそなデータサイエンス部長に聞く「DXの現在地」

» 2024年09月19日 06時00分 公開
[中西享ITmedia]

 前編【りそなのデータサイエンス部長に聞く「金融DXの課題」 AI活用で何が変わる?】に続き、金融業界でいち早くデジタル化に取り組んできた、りそなホールディングス・データサイエンス部長の大西雅巳氏にインタビューした。

 同社では法人営業の分野でもDXを進めている。例えば過去の取引事例などをAIに学習させることにより、取引先との効率的な商談を実現しているという。その他、データ分析の専門家を擁するブレインパッドとも積極的に連携している。「リアルとデジタルの融合」の具体的な進展を聞いた。

大西雅巳(おおにし・まさみ)氏。1997年に旧あさひ銀行(現りそな銀行)に入社し、個人向けマーケティング部門などを経て、2019年に等々力支店長。21年にIT企画部グループリーダー、23年4月からデータサイエンス部長。49歳。三重県出身(りそなホールディングス提供)

AIが営業先を選定 「経験に頼っていた従来と比べて……」

 法人営業で大切なことの一つは新しい取引先の開拓だ。多くの顧客と面談し、融資の相談などをどれだけ多くできるかがカギとなる。

 しかし、多忙などを理由に取引先から面談を断られることも少なくない。この対策として、りそなは過去の取引事例などをAIに学習させ、どの取引先と面談できる可能性が高いのかをAIで優先順位付けし、それを参考にしてアプローチを考える手法を取っている。このツールにより効率的な営業活動が可能となり、現場から喜ばれているという。

 「AIが示した優先順位に沿って取り組んだ結果、従業員一人ひとりの経験に頼っていた従来と比べてよい結果につながり、従業員がデータドリブンな行動にシフトするきっかけとなりました」

実績をタイムリーに表示 ダッシュボード活用で生産性が1.3倍に

 これまではExcel(エクセル)などによって作成していたグラフを、データを集約して共有・分析するBI(Business Intelligence)ツールを利用してタイムリーに表示するダッシュボードも導入している。あるダッシュボードの事例では、業務の処理状況がグラフで分かりやすく表示されたことで、スタッフが自発的に業務を改善していくためのポイントの理解につながった。その結果、業務全体に好影響を与え、生産性が1.3倍に向上したという。

 「このダッシュボードは、管理者向けに現場の人員配置の適正化につなげてもらうためのものでしたが、現場の管理者がダッシュボードをスタッフ全員が見えるところに表示したことによって、スタッフ一人ひとりの生産性への意識向上につながっています。スタッフの『こうやったらもっとよくなるのではないか』といった実務レベルの意思疎通のきっかけにもなり、仕事のやりがいにもつながっています」

 最近、一部で使われ始めた音声入力機能をアプリで活用することについて聞くと「100%の正確性を求められる銀行取引との親和性という面で、音声入力に移行するには最後に乗り越えなければならない課題がある」としつつも、新たな技術の採用は大切だと語る。

 「とはいえ、デジタル一辺倒なら『ネット銀行でよいのでは』ということになってしまいます。ベースのサービスをテクノロジーでカバーし、より高度な部分は人財のチカラで最適な提案を提供していくことが差別化の重要なポイントで、最後は人財が決め手になります」

 南昌宏社長は以前から「リアルとデジタルの融合」を主張しており、店舗の優位性を生かしながらデジタル化も進めていく構えだ。

ソフトバンク、静岡銀行と協業 狙いは?

 りそなグループは、自社で開発・実用化して成果が出たデジタル化技術などを、他行へ展開することも進めている。静岡銀行とは、ブレインパッドを含む3社間でデータ利活用の高度化に向けた取り組みを開始した。

 静岡銀行では、2023年11月からブレインパッドとりそなグループの共同支援を受けて、NISA(少額投資非課税制度)口座開設ニーズの予測や各種サービスの利用状況の可視化など、試験的にデータ利活用に取り組んできた。その結果、営業推進施策やデータサイエンス関連の人財育成などの分野で一定の成果が認められ、データ利活用の伴走支援業務に関する契約締結に至った。

 ブレインパッドとりそなグループは、共同で開発・蓄積してきた金融機関向けのデータ利活用のノウハウを生かし、静岡銀行に提供するサービスの価値を最大化させることを目指している。

データ利活用で目指す姿(プレスリリースより)

 8月には、ソフトバンク、ソフトバンクグループ傘下で組み込み型保険のシステムを提供するリードインクスとの協業を開始した。同社が提供する保険販売システム「Fusion」(フュージョン)のりそなグループアプリへの導入を通じて、即日加入、即日補償を実現する損害保険を取り扱う。

 りそなグループアプリでは、これまでも保険商品を取り扱ってきた。今回はスマホ完結、即日加入、補償期間が即日開始の損害保険の取り扱いを開始し「帰省し車を運転する数日だけ」「ゴルフをする今日だけ」など、顧客のピンポイントな保険ニーズに応えるという。このように他社とも積極的に連携し、次世代の金融機関の在り方を模索している。

りそなグループやテクノロジーを有する企業が持つ機能・サービスと、利用企業をAPIでつなぐ金融デジタルプラットフォームを提供する(プレスリリースより)

金融業界の地図が塗り替えられる

 以上がインタビュー内容だ。

 この数年のキャッシュレス化の急速な進行により、非銀行系の資金移動業者がデジタル化を武器にして金融取引サービスに相次いで進出した。会員数を大幅に増やし、銀行を主に利用していた顧客層を奪う形が続いてきている。

 対する伝統的な金融機関も、受け身ではいられない。さらなる利便性やサービスの向上を求める利用者の要望にどこまで応えられるかが肝だ。この動きによっては、銀行や証券も含めた金融業界の地図が大きく塗り替えられる可能性もある。りそなグループにとっては油断できない戦いが続きそうだ。

金融業界でいち早くデジタル化に取り組んできたりそな(写真提供:ゲッティイメージズ)

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