この記事は、パーソル総合研究所が8月27日に掲載した「カスハラへの『追い打ち』――セカンド・ハラスメントという問題」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。
昨今、顧客からの不当な要求や嫌がらせ行為であるカスタマーハラスメント(以降カスハラ)が社会問題化する中、パーソル総合研究所は対人サービス職を対象とした「カスタマーハラスメントに関する定量調査」を実施した。
その調査からは、カスハラ被害の実態だけでなく、多くの現場ではカスハラが「我慢」「放置」「無視」されているという問題が鮮明に明らかになっている。本コラムではこれらのデータを紹介しながら、求められる企業側の対応姿勢について議論したい。
パーソル総合研究所の調査では、対人サービス職全体において、35.5%の従業員が過去にカスハラ被害を経験しており、3年以内の被害経験者は20%を超えていた。カスハラ被害は、従業員にどのような影響を与えるだろうか。
カスハラ被害を受けた後の心境について尋ねると、「仕事を辞めたい」と感じた者が38%、「出勤がゆううつになった」と感じる者が45.4%と高い割合に上る。やはりカスハラ被害は、かなりネガティブな心象を残している。
さらに多角的に把握するために、1年以内のカスハラ被害経験の「あり層」と「なし層」について、職種や性年代をコントロールしながら比較した。すると、被害経験「あり」層はない層と比べて、転職意向が1.8倍から1.9倍も高くなっていた。
すでに辞めてしまった割合はこの中に含まれない。つまり、今はまだ働き続けていても、離職への誘因を引きずりながら働いている人の多さを示していることになる。職場・企業単位の年間の平均離職率で比較してみても、カスハラ被害がある職場では、年間平均離職率が約1.3倍も高くなっていた。
職種別に、カスハラ経験率と離職率をマッピングしてみても、その両者には緩やかな相関関係が見られる。また、マッピングの右上には、カスハラ経験率と離職率がともに高い職種として、「福祉職(介護士・ヘルパーなど)」「宿泊サービス」「受付・秘書」「医療職(医師、看護師など)」の職種が浮かび上がってくる。こうした職種は人材不足の要因にカスハラが寄与し続けている可能性が高く、特に対策が急務だ。
では、カスハラ発生時に、従業員と企業はそれぞれどのように対処しているのだろうか。
カスハラ被害を受けたその場での従業員の対応は「ただ我慢した」(37.0%)が最も高く、「反論、説得などを行った」(26.9%)と続く。
カスハラ発生時のその場の顧客対応は、カスタマーサービスやお客さま相談部門などによる実務的知見がかなり蓄積されている領域である。例えば、クレームに対しては「恐れいりますが」「あいにくですが」といった丁寧なクッション言葉を挟むことや、限定的な謝罪をすること、謝罪言葉のバリエーションを増やすことなどがアドバイスされている(※1)。とはいえ、激高する相手や理不尽な言動をする相手への対応は従業員にとってやはり難しいことであり、現場での対処も「我慢」という消極的な態度に偏っている。
(※1)日本対応進化研究会(2020)『グレークレームを“ありがとう!”に変える応対術』日本経済新聞出版
従業員のその後の行動としては、「社内の上司に相談した」(41.5%)「特に何もしなかった」(41.3%)「社内の同僚に相談した」(25.4%)の順に高い。報告することと何もしないことが同程度に高いという状況だ。
では、会社側はどのような対応を見せているだろうか。
カスハラ被害後の会社側の対応は、「被害を認知していたが、何も対応はなかった」が36.3%で最も高い。「認知していない」も19.3%であることを考えれば、従業員が受けるカスハラ被害は、その多くが企業からなんの対応も受けていないことが分かる。
カスハラ被害への対応は時間も人員もかかるものであり、組織マネジメントとして一定のコストである。対応内容として最も多いのは「事実確認のためのヒアリング」(44.5%)であり、現場も忙しい中での丁寧な対応は後回しになりがちだ。また、トラブルが解消してしまえば、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、その後はおざなりの対応をしてしまうシーンは多い。
それだけでなく、従業員側にも何かしらの落ち度がある場合には、顧客のせいだけとは言えないと判断し、対応に対して消極的になることもある。しかし、報告したことに対して会社が何の対応もないことが積み重なれば「カスハラがあっても我慢するだけ」という意識が広がり、その職場からは人心が離れていく。
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