カスハラ被害後の会社の対応がないこと以上に、カスハラ被害を受けたという報告に対して、被害者の従業員側を追い詰めるようなことも一部の職場では存在することが分かった。
その内容は、カスハラ被害後に、会社や上司から「ひたすら我慢することを強要された」(11.0%)「軽んじられ、相手にしてもらえなかった」(8.9%)「一方的に自分自身に責任転嫁された」(8.2%)と続く。嫌がらせを受けた被害者に対して、さらに追い打ちをかけ、ネガティブな影響を加速させてしまうような対応だ。これらカスハラの「セカンド・ハラスメント」とも呼べるような状況は、被害者全体で25.5%と4人に1人の割合で見られ、無視できるような頻度ではない。
こうした会社の不適切な対応は、その後の従業員の会社への信頼を損ねるということも分かっている。カスハラ対策を検討する際、顧客という外部要素だけではなく、組織内部の問題にも企業はきちんと目を向ける必要がある。
また、調査サンプル数が一定確保できた職種(40人以上の全18職種)について、セカンド・ハラスメントが多い職種を抜粋した。すると、単にカスハラ被害が多い職種とはやや異なり、教職員や営業職、飲食といった職場でセカンド・ハラスメントが多い傾向が見られた。こうした職種では、カスハラに対して顧客が絶対視されがちということだろうか。いずれにしても注意を要する傾向だ。
データで確認された状況と昨今の世論的なトレンドを見て、筆者は今こそ、企業がカスハラへの「態度」を内外に表明するべき時期が来たと考えている。
顧客とは、あらゆる企業にとっての利益の源ではあるが、それと同時に人材不足や営業妨害といった悪影響の要因でもある。営利企業である限り、後者の悪影響のほうが強い顧客を「顧客」として扱い続ける必要はない。暴力など明確な犯罪はもちろん、悪意ある行為や不当な要求に対しては、毅然とした態度が求められる。カスハラが社会問題化し、耳目が集まっている今こそがその態度を表明する好機であろう。
すでに多くの企業は実践に移しはじめた。例えば2024年の春、日本最大の交通インフラ業であるJR各社がカスハラ対応への方針を発表。IT関連でも、クラウド会計ソフトを展開するフリーは、カスハラ行為に該当すると判断した場合、サービス提供を断る方針を発表し、さらに発表に至った経緯をnoteで公表している(※2)。
(※2)東日本旅客鉄道(2024)「カスタマーハラスメントに対する方針」(2024年8月7日アクセス)/西日本旅客鉄道(2024)「『JR 西日本グループ カスタマーハラスメントに対する基本方針』を制定いたしました」 (参考:PDF 2024年8月7日アクセス)/freee(2023)「カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方」(2024年8月7日アクセス)/freee(2023)「カスタマーハラスメントに対するfreeeの考え方ができるまで」(2024年8月7日アクセス)
カスハラへの態度表明は、サービス提供側と顧客のふれあいを減少させ、ギスギスさせてしまうものに思えるかもしれない。しかし、それはカスハラと無縁の多くの普通の顧客に対しては大切に扱うという「メリハリ」のある態度として表現し、理解されるべきだろう。カスハラが起こることによって、「普段の、普通のお客さまの大切さに気が付く」ということも現場では往々にしてよくある光景だ。
当然ながら、私たちの生活は、多くのサービス提供者に依存して成り立つ。顧客と提供側が良好な関係でいられるためにも、サービス現場で人が前向きに働き続けるためにも、カスハラに対する方針を会社ぐるみで取りまとめていくことを進言したい。
パーソル総合研究所が実施した「カスタマーハラスメントに関する定量調査」 から、カスハラ被害に対する従業員と会社のそれぞれの対応を見た。現状、多くの職場でカスハラが「我慢」「放置」「無視」されており、結果的にサービス職の人材不足を加速させ続けている現状がクリアに見えてきた。これまでも、カスハラ被害者として黙って職場を去っていった労働者は大量に存在し、この瞬間もそれは続いている。それどころか、一部の現場では、セカンド・ハラスメントのような我慢の押しつけや従業員への責任転嫁が行われている実態も明らかになった。
今、カスハラへの耳目が集まっているこのタイミングで企業に求められるのは、会社としてカスハラへの毅然とした態度の表明である。顧客とは企業利益の源であるが、それはカスハラをしない大部分の顧客についてである。悪質な行為を行う顧客を「顧客」として扱い続ける必要はない。この現状を踏まえ、企業側、マネジメント側が従業員や顧客に対して「どう考え・どう対応するか」を明確に示すべき時期が来ている。
パーソル総合研究所シンクタンク本部上席主任研究員。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。新著『リスキリングは経営課題』では、従来の発想を乗り越えるべきという提案にはじまり、リスキリングを現実的に進めるための仕掛けや仕組み、方向性について、各種データをもとに論じている。
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