日米韓で異なる「IPビジネス」の稼ぎ方 軒並み好調のエンタメ企業を分析(2/2 ページ)

» 2024年10月07日 08時00分 公開
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IPビジネスとエンタメビジネスはどう違う?

 各社の決算資料を見ていると、随所にIPというワードが出てきます。IPは、Intellectual Propertyの略で、日本語に直訳すれば「知的財産」です。

 エンタメビジネスにおいては、マンガやアニメのキャラクター、ロゴマーク、ブランド、ストーリーなどの知的財産を指し、それらを保有する人または会社を「IPホルダー」という呼び方をします。そして、それらのIPを軸にしたメディアミックス・ライセンスなどの二次展開事業などをIPビジネスと呼んでいます。

 一般社団法人MANGA総合研究所の所長の菊池健さんが9月に出版した著書『漫画ビジネス』で図示されているイメージが分かりやすいと思います。漫画を軸にしたビジネスだけでなく、漫画をアニメ化してメディアミックスを展開しビジネスを広げていく。当然ながら、それらの展開は、全て自社だけで賄うことは難しいため、複数の会社がIPの収益を最大化するためのプロジェクトを作り、出資して役割を分担する。その最たる例がアニメの製作委員会です。

IPビジネスの広がり(『漫画ビジネス』より)

 IPビジネスとは、自社が作り出すエンタメコンテンツによるビジネスだけでなく、そこで生まれたIPを活用したビジネスを指すことが分かるかと思います。

日米韓で異なるIP創出の形

 日本のIPビジネスの中で特徴的なのは、上記に記載した通りアニメ製作委員会です。日本は、小学館、集英社、講談社、秋田書店などの出版社が作り上げた週刊漫画誌(とその流通網)の文化が強く、多くの漫画が出版され、漫画作品発のアニメ、映像(ドラマ)、キャラクターグッズなどが非常に多い国です。

 IPビジネスの観点でいうと、漫画原作は個人の作家。そしてその先のアニメ展開やIPビジネス展開は各出版社が作家の代理人として各プロジェクトに参加して進めています。

 出版される漫画の中から人気になった(または、なりそうな)原作を、アニメ化するのがアニメ製作委員会ですが、単にアニメを作るのではなく、アニメ・玩具・ゲーム会社(東映アニメーションや、バンダイナムコなど)が、アニメ以降のIPビジネスを進めることを見越してプロジェクトに資金を出資し、各社が役割に担いながら、IPビジネスとして事業管理していくための座組みになっています。

 このアニメ製作委員会のような座組みが世界のIPビジネスで一般的かというととそうではありません。日本は漫画発のIPが多いのですが、世界を見渡すと、長く愛されるコンテンツ=漫画ではないからです。

ハリウッドを擁する米国

 例えば、米国における最もコンテンツが生まれる場所は映画であり、ハリウッドです。映画の元となる企画や脚本=IPをプロデューサーが自己出資で作り(LLCなどの会社で権利を保有する)、そのIPを軸に出資者や監督、出演者、制作会社を集めながら作品を仕上げていきます。少ない資本金から資金を集めて成長させていくやり方は、スタートアップ企業に近いといえるでしょう。

 米国で成功しているエンタメ企業といえば、Disneyが分かりやすいですが、Disneyもベースはアニメ映画を作るスタジオが軸で、そこから派生する形でグッズ・テーマーパークなどの事業を手掛けていきました。Diseny傘下のPIXARやMARVELも同様です。

K-POPで世界を席巻する韓国

 韓国は、この20年で世界のエンタメの中で大きく躍進したK-POPブームが示すように、新しいトレンドやメディアをフル活用してエンタコンテンツを作っています。音楽やドラマなど作品、アーティスト、タレント、俳優などのファンビジネスに加えて、アニメ、漫画、キャラクターを組み合わせてIPビジネスを構築しているのが特徴といえます。

 K-POPアーティストとして最も成功したBTSは、楽曲以外にもコンサート、イベント、グッズなどのファンビジネスに加えて、BT21というキャラクターを生み出し、キャラクタービジネスも行っています。

BTSはBT21というキャラクターを生み出し、キャラクタービジネスも行っている

 日本と比べると漫画雑誌などの歴史が浅かった韓国では、Webメディアでの新しい漫画型コンテンツという形でWebtoonが生まれ、世界的にも大きな潮流になりつつあります。スマホでの読みやすさ(フルカラー、コマ割り)、ローカライズのしやすさなどに加えて、ドラマなどにも展開しやすく、実際にNetflixで人気になった韓国発のドラマ作品の中では「梨泰院クラス」「地獄が呼んでいる」「女神降臨」など、Webtoon原作のものも多くあります。

 今回は、日本、米国、韓国の事例を挙げましたが、他の国でもエンタメコンテンツは、ジャンルや国境がますますボーダレスに広がっています。それぞれの国の文化を反映しながら広がるIPビジネスは今後、新しいテクノロジーと組み合わさりながら、10年、20年と形を変えながら発展していくでしょう。日本のエンタメ企業が成長を続けるためには、変化を積極的に取り込んでいく柔軟な姿勢が求められそうです。

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