私は、2010年から7年ほど、漫画家志望者に安価なシェアハウスを提供するトキワ荘プロジェクトという事業を通じて、数百人の漫画家志望者の挑戦する姿や、彼らの成果たる漫画原稿をたくさん見せてもらいました。また、その志望者が実際にプロになっていく過程や、夢破れ諦めていく姿を、かなり近いところでたくさん見ていました。その時に感じていたのが、やはりジャンプのとんでもない力です。
典型的な漫画家志望者は、おおよそ学校のクラスや周囲の友達の中で一番絵のうまい人間です。
特に地方出身者で、秋葉原や池袋、ビッグサイトの同人誌即売会など、東京の文化になかなか触れられない若者が見ているのは、ほとんどジャンプであったようです(電子書籍の発展前の話です)。
当時のトキワ荘プロジェクトでは、最低限1本作品を描いているということを入居の条件にしていました。1作品をつくり切るというのは、言葉にすると簡単ですが、実は並大抵の努力ではできないことです。
ある程度、漫画家を目指す経験を経た人の中では、ジャンプ志望ではなくなる人も増えていきます。ジャンプを目指す気持ちの強さは人それぞれでしたし、実際の入居者はいろいろなレーベルを掛け持ちで考えている人がほとんどでしたが、入居者の中でジャンプ一本に絞った志望者は4分の1もいないかなあという体感でした。
その中で、実際に例えばジャンプで受賞したり、読切掲載するなど、実績を持って上京してくる漫画家志望者の実力は、段違いでした。『ドラゴンボール』で言うと、クリリンやヤムチャなどの普通の地球人に対して、ジャンプで戦っている層はサイヤ人クラスと言えるくらい「漫画力」の差を感じていました。
当時の私の目線からは、ジャンプ編集部に実際に持ち込んだり、他誌と並行して目指している漫画家志望者は、志望者全体の2〜3割程度というイメージでしたが、その2〜3割の漫画家志望者の漫画戦闘力を数値化して合算すると、漫画家志望者・新人漫画家全体の漫画戦闘力の7割くらいがジャンプに集まっているように感じられました。
それくらいの規模の才能のかたまりのようなものが、限られた掲載スペースに集まり切磋琢磨する様子は、特殊な立ち位置にいた私からはさながら蟲毒(こどく)のように見えました。
ちなみに蠱毒というのは、古代中国の呪術で、小さな入れ物の中に大量の生き物を閉じ込めて共食いさせ、最後に残った1匹を呪詛の媒体に用いるというものです。つまり、激しい競争の中で、とてつもない化け物が生まれるわけです。
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