顧客からの問い合わせにAIを活用したい──カスタマーサポート部門の担当者が業務効率化のためにそう考えるとき、気がかりなのが「顧客満足度が落ちないのか」だろう。
実際に、顧客の64%がAIによるカスタマーサービスを望んでいないと、米Gartnerの調査で判明している。カスタマーサポート部門のリーダーの60%が「自部門でのAI導入を求められている」と感じている状況と対照的だ。
そんな中、業務にAIを導入して5カ月で1650時間もの業務削減を達成しつつ、顧客満足度を下げるどころか向上させた事例がある。インターネットサービスを提供するGMOペパボ(東京都渋谷区)に、その秘訣を聞いた。
同社は2024年1月、全てのサービスの問い合わせ対応にAIを導入した。具体的には、大規模言語モデル(LLM)を活用して顧客の質問を理解し、事前に登録されたFAQやナレッジベースから最適な回答を提供するAIチャットbotだ。
導入以前のカスタマーサービス部門では、11ある全ての提供サービス(現在は13)の合計で月に3857時間の有人対応が発生していた。また、特に繁忙期には回答が遅れてしまうことや、従業員の勤務歴や経験によって応対品質にばらつきが生じてしまうこともあった。
これらの課題を解決するため、AIチャットbotを導入。24時間いつでも回答が返ってくるようになったことで、顧客満足度は86%から88%へ、2ポイント上昇した。
問い合わせ後のアンケートにおいては「迅速で便利」「必要な情報がすぐに見つかった」といったポジティブなフィードバックが見られるという。電話では問い合わせをためらってしまう顧客も一定いたと見られるが、そうした層にもサポートを届けられる機会になった。
チャットbotの精度については、よくある質問や過去のデータを学習させ、正答率を向上させている。単語や簡単な表現の質問には、AIが追加質問を通じて顧客の意図を把握し、適切な回答を提供できるよう工夫している。
チャットbotで十分な情報を得られない場合は有人対応に切り替えるが、この時点で顧客の悩みが明確になっているため、対応はよりスムーズになったという。また、カスタマーサポート部門側で「どのフェーズで有人対応となったのか」を識別できるようにしており、担当者は1つのツールで顧客対応を完結させられるよう整備した。
同社の事例が特徴的なのは、単なる業務効率化にとどまらず、削減された負担の分、カスタマーサポート部門で働いていた従業員に異動やリスキリングの機会を提供していることだ。
AIチャットbotの導入前には11あるサービスに5〜15人ほどの担当者がついている形だったが、現在はその中から11人が異動した。そのうち4人は、異動前に実施したプロジェクト管理やリーダーシップスキルのリスキリングを通じて、新サービスの立ち上げに関与した。
新サービスとは企業の生産性向上を支援する会話型AI「GMO即レスAI」だ。顧客の問い合わせニーズを的確に捉えるシナリオ作成や、効率的なオペレーションフローの整備を担当した。
「業務効率が上がり、カスタマーサポート部門だけでなく他部門へのジョブローテーションが積極的に行われ、パートナー(従業員)のキャリアパスが多様化しています。結果として、パートナーがより高い付加価値を提供できる環境が整い、キャリアアップの道筋が明確になっています」(同社担当者)
今後はAI活用を通じて「ユーザー一人一人に応じた個別の対応ができるようになるといい」と考えているという。具体的には、過去の問い合わせ履歴やユーザーのニーズに基づいたパーソナライズ対応の強化や、音声対応の導入による、よりスムーズで直感的な体験の提供を目指す。
一方で、複雑な問題解決や感情的なサポート、顧客に寄り添う必要がある場面では、依然として人間の判断と対応が欠かせないとの認識だ。
「将来的には、AIと人間がそれぞれの強みを生かして連携することで、より高品質で信頼性の高い顧客サービスの提供が実現できると期待しています」(同社担当者)
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