この国のお偉い人たちは、どこまで氷河期世代を追い詰めれば気が済むのでしょうか。
首相の諮問機関「政府税制調査会」が11月15日に開かれ、退職一時金課税見直し議論の再開が決まりした。
自民党の宮沢税調会長は、月内に本格化する「与党税制調査会」の2025年度税制改正論議でも、「退職金課税見直しを議論していく」と明言しました。1970年代の税制改正で平均的な退職金額には課税しないという方針が示されて以降、その流れは今も変わっていません。これが、転職する人が増えている現状に合わないとして見直しを求める声が有識者からも続出しているそうです。
2023年6月、政府は退職一時金課税制度を見直し、労働移動を促すことを「骨太の方針」に盛り込みました。この際は「サラリーマン増税だ!」と強い批判が巻き起こり、いったんお蔵入りしました。
実は、この退職金所得課税に白羽の矢がたったのは、さかのぼること30年前。リストラの嵐が吹き荒れた1990年代初頭です。
当時は経済成長の阻害要因の一つとして見直す声が高まり、その後は賃金の高い中高年をなんとしてでも切りたい大御所たちが、「優遇措置があるから転職しない」「優遇措置があるから会社にしがみつく輩が増える」「雇用の流動化の邪魔」などと難癖をつけ続けました。
そして、ついに前政権で岸田文雄前首相が掲げていた「新しい資本主義」と「どうにかして増税したい国」と「中高年を切りたくて仕方がない経営者たち」の思惑が一致したのです。
むろん、働き方の多様化を踏まえて「中立的な税制にすべき」という意見が、政労使双方から出ているのは事実です。
しかし一方で、骨太の方針に盛り込まれた「新しい資本主義」の実行計画には以下のように記されていました。
退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年当たりの控除額が40万円から70万円に増額される。これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。
勤続20年、そう、勤続20年です。これに相当するのは40代、いわゆる「氷河期世代」です。
いわずもがな「氷河期世代」を作ったのは経営側のご都合であり、低賃金の非正規雇用を増やし、正社員との格差を広げたのも経営側の問題です。「中立的な税制」という主張はごもっともですが、かつて炎上した企業側の「45歳定年説」を政府が実現させようとしたのでは? と疑いたくもなります。
内閣府が、総務省「全国家計構造調査」「全国消費実態調査」の個別データをもとに1994〜2019年の世帯所得の変化を分析したところ、25年間で年収の中央値は「550万円から372万円へ」著しく減少し、特に45〜54歳では94年の826万円から195万円も減少。氷河期世代を含む「35〜44歳の単身世帯」の所得のボリュームゾーンは、94年の500万円台から、300万円台へと200万円ほども減っていました。
そこにきての「退職一時金課税見直し」です。あまりにひどい、としかいいようがありません。
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