私自身が意思決定に対して大切にしている考えの一つに「衆議独裁」という言葉があります。「衆議」は、皆で議論を尽くす、「独裁」は、独りが決めるという意味です。
一人が持っている情報には限りがありますから、周囲のメンバーの考えに耳を傾けて議論することは重要です。複眼的に検討することで、見落としのリスクを防げます。しかし、決定に際しては、決める立場の人間が一人で決めることが望ましいというのが私の考えです。過去の経験を振り返ってみても、多数決で決めると誰も責任を取らない、誰もコミットしない……そんな状況が生まれやすいと感じています。
この話をすると、「では、全て社長が決めるのか?」といわれることがありますが、そうではありません。営業戦略を決めるのは営業組織の責任者、部門の事業方針を決めるのは部門長というように、その領域ごとの責任者が決めることが重要なのです。自分で決めるからこそ責任感が生まれますし、責任を持つからこそ考え抜いて判断できるのだと思います。
しかし、失敗する可能性を抱えながら判断するのは、誰しも怖いことです。状況によっては、結果が出るまでの間、周囲から批判されることもあるでしょう。結果が見えるまでの恐怖や批判に耐える力として必要なのが「胆力」です。
「胆力」とは腹で決めること。つまり、論理や共感に加えて、自分自身の信念を持って決めて、行動し続ける力が必要です。グロービス代表の堀義人はよく「信念とは知の極みである」と述べています。その意味は、「考えて考えて考え尽くせば、やがてそれが信念となる」ということです。自分が知りたいと思ったことを、調べ尽くして、考えて、周囲に相談して批判されて、それでも繰り返し考え続ける。その結果として、決める力が磨かれていくのだと思います。
埼玉大学教育学部卒業。株式会社サイバーエージェントでインターネットマーケティングのコンサルタント経験を経て、デジタル・PR会社のビルコム株式会社の創業に参画。取締役COOとして新規事業開発、海外支社マネジメントなど経営全般に携わる。グロービス参画後は、社内のEdtech推進部門にて「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める。グロービス経営大学院や企業研修においてプログラムの講師なども担当。著書に『AIが答えを出せない問いの設定力』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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