かつて、企業で働くビジネスパーソンにとって管理職への昇進は、社内での自らの地位が上がり業務権限が増えるのでとても喜ばしいことでした。
しかし昨今は「出世しなくてもよい」と考えるビジネスパーソンが増えています。特に、若年層のビジネスパーソンに管理職を打診しても断られるケースが見受けられ、企業によっては後任者を据えるのに苦労することもあります。
しかし、社員の意思や都合を優先してばかりでは人事がうまく回りません。この場合どうすればいいのでしょうか。
甲社は従業員数300人。主に精密機械の販売を行う企業で、都内にある本社の他大阪に営業所がある。9月上旬、本社の営業課長であるA(40歳。以下「A課長」)は、10月1日付で大阪営業所の所長(部長待遇)に昇進することになった。そこで自分の後任者としてB主任(35歳)を推挙することにした。
次の日の朝。A課長はB主任を呼び、大阪営業所長として赴任することを話し「私の後任者として君を正式に推挙しようと思う。C専務(会社の人事・総務関係の責任者)には事前に相談してOKをもらったよ。どうだ? 引き受けてくれるよね」と伝えた。
「ちょっと待ってください」と、B主任は困った表情になった。
B主任:「急に言われても困ります。第一自分には営業課長なんて無理ですよ」
A課長:「そんなに謙遜するな。君の営業成績は部署内でダントツだし、後輩の面倒見もよくてメンバーたちに慕われている。君以外に適任者はいないよ」
B主任:「自分にはA課長のような仕事はできません」
A課長:「しばらく時間をやるから前向きに考えてほしい」
しかし、面談の日から1週間が過ぎてもB主任からは何の返事もない。業を煮やしたA課長はB主任を応接室に呼んだ。
A課長:「例の話、OKだよね?」
B主任:「やっぱり営業課長の件はお断りします」
A課長:「なぜだ。理由を聞きたい」
B主任:「自分は営業の仕事が好きなのでこのまま続けたいんです」
A課長:「本社の営業課長は誰でもなれるものじゃない。君は優秀だから、課長として業績を残せばもっと上の地位まで行くことができるんだぞ。考え直せ」
B主任:「しかし、課長になると毎週の全体会議に出席して、社長から『もっと課全体の営業成績を上げろ』とコッテリ絞られるし、A課長はいつも残業しているのに『管理職は残業代が出ないから、営業マン時代より給料減っちゃったよ』ってぼやいてますよね。自分はそこまでして出世したくないです」
A課長:「じゃあ仮に私が君の2年後輩であるD主任を課長に推挙し、承認された場合、君は彼の部下になってもいいのか?」
B主任:「はい。自分は別に気にならないので」
B主任は即座に答え、自席に戻っていった。
A課長は「D主任はB主任より実績も課長としての適性も下だ。もし彼が課長になったら課内の統制が取れなくなるだろう。かといって他の部署から課長を選ぶわけにもいかない。どうしよう……」と頭を抱えた。
ビジネスパーソンが管理職昇進を断る場合、以下の4つの要因が考えられます。
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