上司と部下の会話、なぜかみ合わない? “残念パターン”から探るコミュニケーションの深め方問いの設定力(1/3 ページ)

» 2024年11月18日 07時00分 公開
[鳥潟幸志ITmedia]

著者プロフィール:鳥潟幸志(とりがた・こうじ)

GLOBIS 学び放題 事業リーダー/グロービス経営大学院教員


 上司と話しているとき、あるいは、部下と話しているときに「会話がかみ合わないな」と感じた経験は、きっと誰しもあるのではないでしょうか。

 聞きたい質問に正しく答えない部下、答えたのにうまく受け止めてくれない上司――。上司と部下の双方に言い分があるかもしれませんが、会話の中身をみていくと、両者とも同じポイントでつまずいている事実が見えてきます。それは「問いの立て方」です。

 ビジネススクールの運営などを手がけるグロービスで、動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める鳥潟幸志氏は「問い方を変えるだけで、職場での会話は大きく変わる」と話します。

 今回は、鳥潟氏の著書『AIが答えを出せない 問いの設定力』をもとに、上司・部下の間でよくある「残念な会話」を例として取り上げ、問いの設定力に対する具体的な考え方、能力の高め方について解説していきます。

なぜ上司と部下の会話はすれ違うのか? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

上司が本当に知りたいのは、そこじゃない

 最初に紹介するのは「上司が知りたいことに部下が答えられない“残念パターン”」です。

ある会社の上司と部下の会話

上司: 佐藤さん、現在お願いしている新規プロジェクトは予定通り進んでいますか?

部下: (いきなり質問されて動揺しながら)はい、今のところ順調だと思います。ただ、プロジェクトメンバーの工藤さんのパフォーマンスが思わしくなく、困っています。工藤さんは発想力は素晴らしいのですが、スケジュール管理能力が期待を下回っています。そのため、私たちのチームでは……(続く)

上司: (工藤さんのパフォーマンスについて聞きたいんじゃないんだよな)それで、プロジェクトは予定通りなのですか?

部下: (え? 答えたはずなのに、同じ質問をされている。何をどのように回答すればいいんだろうか?)

 この事例では、上司が聞きたいことに対して、部下である佐藤さんが明確に回答できていないという図式になっています。

 なぜこのようなことが発生してしまうのか。

 それは、部下が「自分が答えやすい・答えたい問い」に答えているからです。

 ですから解決策のポイントは「この場で答えるべき問い」、つまりイシューを正しく認識すること。そのためには「質問者は何を知りたいのか?」をきちんと確認することです。分からなければ聞こうというシンプルな話に聞こえますが、「自分が話したいことではなく、相手が聞きたいこと」に意識を向けられていないと、なかなかその質問に至りません。

 このような視点を、書籍『AIが答えを出せない 問いの設定力』では「イマ・ココで答えるべき問いの設定力」として紹介しています。これはビジネスの基礎となるもので、個人的な感覚ですが、日常業務の8割程度で使えるのではないかと考えます。

 この視点を持って、上司が気になっているポイントをヒアリングし、その点に答えるとよいでしょう。より具体的には「1)主観での回答→2)意図の確認→ 3)イシューに沿った回答」というステップです。

ステップ1:主観での回答

 主観での回答は、例えば「順調だと私は思っています」など、何でも構いません。相手から、予定通りか? 調子はどうか? と聞かれているので、それにしっかり答えるという意味合いもあります。

ステップ2:意図の確認

 上司が「新規プロジェクトは予定通り進んでいますか?」と質問した意図や背景を確認します。例えば「新規プロジェクトで何か気になることはありますか?」などです。

 世間話としての会話であれば「特に心配はしていないよ。その調子で頑張ってね」という形で会話は終了するでしょうし、一方で「実は、別のメンバーからコストが想定以上になりそうだと報告を受けたけど、その辺りを教えてもらえる?」といった内容が返ってきたら、これが本当のイシューだと分かります。

ステップ3:イシューに沿った回答

 「上司の関心はコスト」という場合、「プロジェクトのコストは想定よりも超えてしまうのか否か」というイシューに対して、回答を進めていきます。

 いわゆるコミュニケーションが上手な人は、ステップ2の「意図の確認」を自然な形で問いかける技術に長けています。もちろん、最初からうまく「意図の確認」をすることは難しいでしょうが、トレーニング次第でイシューの設定とイシューに沿った回答が自然にできるようになります。

イシューに沿った回答とは?(出典:「AIが答えを出せない 問いの設定力」より)
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