次に「部下が口を閉ざしてしまう“残念パターン”」について見てみましょう。
“理想のオフィス”について、上司と複数の部下が意見交換している場面で、以下のような会話が展開されているとします。
上司: 今日は理想のオフィスについて、意見交換したいと思います。まずは、どのような意見でもいいので、アイデアを出してみてください。
部下: デスクの横に「何でも回答してくれる人型ロボット」がいてくれたら、私を助けてくれるから嬉しいです。
参加者一同: 確かにいいね。
上司: 人型ロボットですか。理想だけど、実現するイメージはありますか?
部下: いえ……実現方法は思いつきません。
上司: 他に意見はありますか?
参加者一同: 沈黙。心の声(実現方法を含めて質問されると、発言しづらいよな)
こういったコミュニ―ケーションに身に覚えはありませんか?
上司の「実現の手段」という問いにより、無意識に部下の発想を却下しています。本人には却下したつもりがなくても、部下はそのように感じてしまっていますよね。もちろんビジネスなので、アイデアだけではなく、実現方法を検討することも重要ですが、アイデアを広げる初期フェーズで「どのように実現するの?」という問いを発するのは適切とはいえません。
では上司は、どのような問いを投げかけるのが適切だったのでしょうか。
例えば、まずは「人型ロボットですか。斬新なアイデアですね。人型ロボットがいることで実現したい目的ってどのようなことですか?」と、実現方法ではなく意見の目的や狙いを質問する。さらに、目的を確認した上で「人型ロボットは実現するのはまだ先だと思うけど、目的を達成するための、別のアイデアは考えられないかな?」と、目的に対し別の意見を問う。これによって、常識にとらわれない意見を引き出す流れが生まれます。
著書で「ゼロベース思考の『問いの設定力』」としてしているのがまさにこのような内容ですが、凝り固まった常識から抜け出し、ゼロベースで物事を考えるために必要な視点です。
上司の方を対象にしたセミナーなどで上記の話をすると、「部下に目的を聞いても、何も出てこない」「時間制限がある中で、全ての意見に耳を傾けるのは難しい」という声をもらうことがあります。
私は上司が大事にすべき2つのポイントがあると考えています。
1つ目は「“目的は必ずある”という姿勢を持つ」、2つ目は「意見を出しやすい枕詞や選択肢を置く」――ということです。
まず「“目的は必ずある”という姿勢」ですが、これは、部下が何か発言をしたということは、そこには必ず背景や意図があると考えるマインドです。聞いても答えが出てこないのは、目的がないのではありません。言えない理由があるのだと思います。
例えば、こんな意見を言ったら馬鹿にされるかもしれないという不安だったり、まだしっかり言語化できていない状態だったり……さまざまな可能性があります。多くの場合は、上司部下の信頼関係が十分に築かれておらず、心理的安全性が守られていないことが原因ではないかというのが、私がこれまで多くのビジネスパーソンと話す中で得た印象です。
ですから、部下が本音を言えない状況にあるのかもしれないという前提で、問いを設定していく必要があります。上司が純粋に「どうしてそう思うのか知りたい」「自分にはなかった視点だから教えてほしい」と思っていれば、おそらく聞き方も変わってくるはずです。「実は私はこう考えていて……」という声を引き出すことで、その人の意見の本質に出会える可能性があると思います。
2つ目の「意見を出しやすい枕詞や選択肢」は、意見を引き出すための技術の話です。
私はグロービス経営大学院で教員をしているのですが、クラスの中で、生徒に問いを出すことがあります。その際、どういう聞き方をするかで、出てくる意見の数が大きく変わります。例えば「皆さんが経営者だったら、どういう判断をしますか?」と問うと、ほとんど手が挙がりません。回答に戸惑う様子がよく分かります。
一方で、同じ問いに「正解も不正解もありません」と枕詞を置いただけで、手を挙げる生徒の数が一気に増えます。他にも、こちらからいくつか選択肢を出した上で考えてもらうことも、非常に有効です。選択肢から選ぶ形にするだけで、発言のハードルは下がり、気軽に意見できるようになります。
このようにコミュニケーションの技術を使うことで、アイデアを部下からより効果的に引き出していけるでしょう。
さらに意見を広げたい場合は、「何か他に選択肢はありますか?」「あえて反論しようとすると、どのような意見が出そうですか?」など、「問いを進化させる『問い』」を投げかけるとよいでしょう。
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