こんにちは。全国の自治体のデジタル化を支援している川口弘行です。
前回は「自治体における情報セキュリティの考え方」について解説しました。現在の自治体のネットワークは、
――の3つに分離されていて、情報資産の重要性(=機密性+可用性+完全性)も3段階に分類できることから、これらを1:1で対応付けて管理するという提案でしたね。
そして、情報資産の機密性を判別するために、生成AIに文書ファイルを読み込ませて、そのレベルを推測させるという取り組みも紹介しました。
(関連記事:ChatGPTを使って「文書機密レベル」を判別する方法 自治体の情報セキュリティについて考える)
ここでみなさんは、こんな疑問を抱きます。
「機密性を確認するために、その情報資産を外部に持ち出すというのは本末転倒なのではないのか?」
この指摘、まさにそのとおりですね。今回は、この点について解決を試みてみましょう。
川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。
2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。
2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。
現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。
公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com
まず、生成AIを使わずに、どこまで機密性を整理できるかを考えてみます。前回の記事では、現状の運用から情報資産の重要性を推測するというアプローチを考えてみました。
というものです。
まず、レベル3ネットワークにある情報資産は、ひとまず重要性3として扱っておきましょう。これはそのままです。
続いて、レベル2ネットワークにある情報資産について考えます。
原則としてここは重要性2の情報資産が管理されているはずですが、もしかするとここに重要性3の情報資産が混在しているのではないか――というのが主な論点となります。
では、この混在している重要性3の情報資産はどこからやってきたのでしょうか?
レベル3ネットワークで管理している情報資産(住民記録や税、福祉の情報)を持ち出しているのならば、その運用はちょっと問題です。
前回もお話した日本年金機構の情報漏洩(ろうえい)も、年金加入者情報は分離している奥のネットワーク(いわゆるレベル3に相当)で管理されていましたが、職員が何かの作業を行うために、それらの情報を自分のPC(レベル2に相当)に複製し、そのPCが標的型攻撃を受けたことで漏洩につながったわけです。
自治体はインターネット分離を行っているため、直ちに同じような被害は生じないと思いますが、その運用自体は改善の余地があります。
では、メールや紙媒体で受領した情報を転記、再入力することで、重要性3の情報資産を生成したのでしょうか? 名簿などの作成でこのケースは考えられます。
この場合、情報を受領した際に、持ち主(本人)から、その情報についてどのように取り扱うのかの承諾を得ていますか?
見方を変えると、例えば個人を識別できるような情報の提供を受けた際、その情報を当該行政事務で利用する旨の承諾を得ているのであれば、その情報資産は重要性2として取り扱う方がふさわしいのかもしれません(そして、利用目的が達成した段階で適切に廃棄する運用であるべきでしょう)。
なお、レベル2ネットワーク内の情報資産をレベル1ネットワークに持ち出す場合、重要性2のまま持ち出すのか、重要性1に加工して持ち出すのかで、それぞれ異なる取り扱いとなります。これはまた別の機会に考えましょう。
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