自治体DX最前線

プロンプトの悩み不要 自治体で使うべき「ChatGPT Plus」の機能とは?(1/3 ページ)

» 2024年08月08日 07時00分 公開
[川口弘行ITmedia]

 はじめまして。川口弘行と申します。この度、ITmedia ビジネスオンラインで連載記事を担当することになりました。現在、複数の自治体でCIO補佐官やアドバイザーを務め、行政のデジタル化に携わっています。

 最近、新たにCIO補佐官として就任したのが、山梨県丹波山村(たばやまむら)です。人口わずか500人ほどの小さな村ですが、近年は若い移住者も増加傾向にあります。一方で、高齢化率45%という地域でのデジタル化は、私にとっても新たなチャレンジになります。

筆者が新たにCIO補佐官として就任した山梨県丹波山村の役場(筆者提供)

 デジタル化における課題は、多くの自治体で共通している部分が多いものの、丹波山村のような小規模自治体では、1人の職員が複数の役割を担わねばならないという特殊性があります。そのため、他の自治体とは異なるアプローチでデジタル化を進める必要があります。

 この具体的な取り組みについては、別の機会に詳しくお伝えするとして、今回は、自治体における「生成AIの利活用」について考察してみたいと思います。生成AIを業務に導入する自治体が増える一方で、依然として活用に二の足を踏む自治体も存在します。

 生成AIサービスの進化は著しく、複雑なプロンプトを書かなくても、期待以上の回答を示してくれるサービスもあります。自治体の現場に適した生成AI活用の方法を考えてみたいと思います。

著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)

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川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。

2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。

2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。

現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。

公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com


生成AIの回答は「正確ではない」のか?

 2022年11月、米OpenAI社が対話型AIサービス、ChatGPTを発表して以来、わずか2年足らずの間に、日本の自治体においても生成AIの活用方法について活発な議論が展開されてきました。議論の主な論点は、次の3つです。

(1)生成された文章の妥当性に関する問題:生成AIからの回答をどう受けとめればいいのか

(2)送信された情報に対する管理の問題:生成AIに重要情報を送信しても大丈夫なのか

(3)生成された文章に対する評価者側の問題:AIが生成した文章だからダメという理屈は通用するのか

 今回は1番目の論点である「生成された文章の妥当性に関する問題」を軸に考えてみましょう。生成AIは、その名の通り文章を「生成」するAIです。最近では画像や音声の生成も可能になっています。

 このAIは、世界中の膨大なテキストデータを学習し、単語間の関連性や文脈を理解することで、人間らしい文章を紡ぎ出します。しかし、Googleのような検索エンジンとは異なり、回答の根拠となる具体的な事実や情報源を持っているわけではありません

 生成される文章が事実に近い印象を与えるのは、学習データに書籍、論文、新聞記事など、信頼性の高い情報源が多く含まれているためです。そのため、利用者は生成AIが常に正確な情報を提供していると錯覚しがちです。

 鳥取県の平井伸治知事は2023年4月20日の定例記者会見で、生成AIの利用は「民主主義の自殺」と述べました。生成AIが誤った情報を提示することや、自治体の意思決定を機械任せにすることへの懸念を示したものです。確かに、生成AIは単に目先の質問に答えるツールではありません。その意味で利活用に対して慎重になるのも理解できます(関連記事:鳥取県がChatGPT禁止 知事「民主主義の自殺」/2023年4月20日、日本経済新聞)。

 こうした懸念の背景には、前提となる重要な疑問が隠れています。それは、生成AIからの回答とは一体何なのか、という疑問です。

 例えば、人間同士の会話を想像してみましょう。○○さんの話していることは、もっともらしく聞こえるが、必ずしも正確ではない――。このようなことは、人間同士で会話していれば、時折見られる現象です。

 生成AIが提示する回答も、完璧さを求めるのではなく、そのように受け止められれば、過度に懸念する必要はなくなるのではないでしょうか。つまり、生成AIが提示したものは意見なのだと考える。そう捉えられるならば、これらの意見は人間が表明したものであっても、AIが回答したものであっても同等に扱うことができるでしょう。

 自治体の職員は日々、数多くの「正解がない問題」に向き合っています。人口減少、少子高齢化、市街地の衰退――。生成AIが提示した回答を、こうした正解がない問題に対して表明された「意見」の一つに過ぎないものだと捉えられれば、生成AIを活用するハードルは低くなるはずです。

正解がない問題には「意見」がある

 ただ、多様な意見が出たからといって、それで問題が解決したわけではありませんよね? 正解がない問題の解決には、さらに重要なステップがあります。

 それは「決めるということです。

 多様な意見を基に決める、もっと言えば、組織で決めるという行為には、さまざまな困難がつきまといます。しかし、ここで重要なのは、この「決めるという行為こそが、人間が果たすべき最も重要な役割だということです。

 どんな手段を使ってでも意見は出せるが、決めるのは人間。この協働のあり方こそ、今後の自治体における生成AI活用の鍵となるでしょう。

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