「都道府県別の人口ランキングでワースト2位」といって、どこのことだかピンとくるだろうか。答えは島根県である(※)。ちなみに、最下位は鳥取県。ワンツーに山陰地方が並んでいる。
(※)令和2年国勢調査より/2020年
地方から大都市まで人材不足の時代だが、島根県の労働力不足は一際深刻だ。人口が少ないだけでなく、2022年の都道府県別「高齢化率」ランキングでは7位を誇る(?)国内有数の「高齢化先進県」でもある。
そうなると、産業振興は喫緊の課題だ。出雲大社や松江城などを有する島根県では、観光業なども中心産業の一つだが、なによりの特徴はIT企業との連携や誘致の取り組みだろう。県庁所在地である松江市では、スタートアップなどで使われることが多いプログラミング言語「Ruby」の開発者が同市在住であることをきっかけに、産官学が連携してIT企業の誘致やIT人材育成に取り組んでいる。
このほか、11月初旬には出雲市内にコワーキングスペースがオープン。こちらは官民共同で立ち上げたPeople Cloud(ピープルクラウド、島根県出雲市)という企業が運営するもので、IT人材の誘致や県内企業とのマッチングを図るプロジェクトの一環だ。このように、県内では官民協働でのIT企業・人材誘致が目立つ。
直近では、多くの自治体のITまわりのホットトピックといえば、生成AIの活用である。同県ではどのような取り組みを行っているのか。
「庁内広報のあいさつ文の作成や、表計算ソフト用のマクロの作り方を調べるなど、県が定めたルールの範囲内で各部門に任せて運用しています」と島根県庁の矢野信行氏(総務部情報システム推進課 課長補佐)は話す。ChatGPTのサービスが公開されて以降、県職員はセキュリティソフトの問題でアクセスできない期間があったが、今年5月ごろに解決。6月からは個人情報を入力しないなどの留意事項を踏まえた上で、内部利用を可としている。
中でも、県内の産業振興などをミッションとする商工労働部では外部講師を招き、部内で7月と9月の2回に分けて研修を実施した。1回目はChatGPTやStable Diffusionなどの生成AIを利用した。
具体的には、ChatGPTを用いて画像生成AI「Stable Diffusion」の利用に必要な英語のプロンプトを作成するなどし、職員からは「こんなところまでできるのか」「実践的なワークショップで新鮮だった」といった声が上がったという。一方で権利の問題から、県庁内部での活用は可能でも、外部に掲出するポスター作成などへの活用は現時点では見合わせている。
2回目はグループワーク。ランダムに選ばれた4人ずつのグループで、普段の業務における無駄を洗い出し、生成AIを活用できないか考えた。いずれも、部全体のDXを推進する産業振興課 産業デジタル推進室が企画したものだ。
研修は、地域産業の活性化に向けた連結協定を締結しているNTTドコモ中国支社の協力のもとで行った。日ごろから連携しており、これらの取り組みも担当者間の普段の会話から生まれたという。
「生成AIを業務活用するには部署ごとに運用方針を作る必要があるため、現時点では職員個人レベルの活用にとどまるが、まずは行政(島根県)の内部で生成AIの理解を深め、その先では県内企業に積極的に還元していきたい」と、同庁の安達昌明氏(商工労働部産業振興課産業デジタル推進室 室長)は話す。
県内企業への活用推進の取り組みも始まっている。県が100%出資する外郭団体「しまね産業振興財団」は、県内のIT企業に勤める人などを対象にChatGPTの活用に関するワークショップを行っている。
「ChatGPTを、産業振興や企業誘致のためのツールの一つと捉え、ITデジタル人材の育成や県内産業の強化支援、データ活用支援などと組み合わせながら進めたい」(安達氏)
ChatGPT研修の前にも、部内からの発案でDX研修を実施していた。現在は政策のデザイン思考についての勉強会を構想している段階だという。研修を企画した千原洋樹氏(情報産業振興係 主任)はこう話す。
「『シン・トセイ』など先進的な取り組みで注目される東京都では『政策って、デザインだ。』と打ち出し、デザイン思考を共有している。東京都以外でこうしたデザイン思考の取り組みをしている自治体はあまりないようなので、こうした事例にならいながら業務に生かしていきたい」
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