自治体DX最前線

「島根にPCあるワケない」から約20年 人口減でもIT人材が集まり続ける納得の理由増えるIT人口(1/3 ページ)

» 2023年11月20日 08時00分 公開
[鬼頭勇大ITmedia]

 「島根にパソコンなんてあるわけないじゃん」――。2000年に公開された、あるアニメ映画でキャラクターが発したセリフだ。それから四半世紀が経過しようとしている今、島根にはパソコンだけでなく、IT人材が続々と集まり始めている。

 縁結びの聖地として知られる出雲大社が位置する島根県出雲市。同市では「ビジネスの縁結び」に関する取り組みが続々と始まっている。11月7日、JR山陰本線・出雲市駅から徒歩1分の場所にコワーキングスペース「Izumonomad(イズモノマド)」がオープンした。

出雲市駅からすぐの場所にオープンした「イズモノマド」

 イズモノマドは「グローバルな人材、企業が集う共創ハブ」を銘打つ。同日のオープニングイベントは、出雲市の飯塚俊之市長も出席。「これまでもDXや企業誘致に関する取り組みを進めてきたが、今後は民間企業と交流して力を借りながら、出雲を“テックハブ”としていきたい」と意気込みを語った。

イズモノマドのオープニングイベントで話す飯塚俊之・出雲市長

「人口減」でもIT人口は過去最多 立役者は「Ruby」

 これまで島根県内でIT関連の取り組みが目立っていたのは、松江市だ。国産のオープンソースプログラミング言語として知られる「Ruby(ルビー)」を軸にイベント開催などへ取り組んできた。島根県庁の担当者によると、Rubyの強みは「アジャイルで開発しやすく、ブラッシュアップもしやすい」こと。そのため、スタートアップ企業のサービスに使われることも多いという。コードの読みやすさ・書きやすさに秀でており、初心者に扱いやすい点もメリットだ。

23年で9回目の開催となった「Ruby biz Grand prix」では、大賞にウーオ(広島市)とピクシブ(東京都渋谷区)の2社が選ばれた。写真左はまつもとゆきひろ氏、右がウーオの土谷太皓取締役CPO

 Rubyの“創造者”として知られるまつもとゆきひろ氏が市内に在住していることをきっかけに、松江市では06年から「Ruby City MATSUE」と銘打ったプロジェクトを開始。エンジニアたちが交流する拠点の設立や、Rubyに関する国内最大級のビジネスカンファレンス「RubyWorld Conference」、ビジネスの活用事例を表彰する「Ruby biz Grand prix」の開催などをしてきた。地道かつ、オープンソースを地方創生の資源と捉える斬新な取り組みで、今や松江市がRubyの“聖地”であるとともに、島根県もITに積極的な県として知られるようになっている。

RubyWorld Conference 2023で講演をするまつもと氏。Rubyの誕生から30年の歴史を振り返りつつ、Rubyのこれからを語った

 島根県情報産業協会・しまねソフト産業ビジネス研究会がまとめている「ソフト系IT業界の実態調査(第15回)」によると、23年度の県内ソフト系IT企業の売り上げは約333億円。初回調査で06年度の売り上げは約104億円だったため、20年弱で3倍に増加している。

 県内に本社を置くソフト系IT企業の県内従事者も、同期間で869人から1784人へと大幅に増加。総務省が20年に実施した国勢調査によると、島根県の人口は47都道府県中ワースト2位の67万1126人だ。若者を中心とした人口減に直面する島根県にとって、ITは非常に重要な役割を占めているといえるだろう。

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