ピープルクラウドの牧野氏は「出雲市に魅力を感じ、自主的に県外の人へ移転や移住の勧誘をする人が多い中で、活動の拠点となる場所がないことが課題だった。一種のランドマークとなるような場所が必要だと感じていた」とイズモノマドを設立したきっかけを話す。
もともと牧野氏も、出雲市との縁は特になかったという。17年にロシア・サンクトペテルブルクでSAMI LLCを創業して活動していたが、ロシア・ウクライナ間の戦争を機に日本へ帰国。その際に、出雲市を拠点に活動する知人のコネクションもあって移住し、徐々に地域の魅力に気付いていった。
出雲市の魅力について、牧野氏は「多文化共生」を挙げる。出雲市以外でも国内には外国人が多く居住する地域があるが、多くは日本人と外国人との間に壁が生まれがちだ。一方、出雲市では両者の垣根が低く、保育園などの公共機関で異文化圏の人同士のコミュニケーションに関する行政の整備も行き届いているという。
こうした出雲ならではの強みを、イズモノマドでも生かす。レンタルオフィスやイベントスペース、シェアワークプレースを兼ね備えるだけでなく、新規事業の立ち上げから既存ビジネスの拡大などに豊富な知見を持つコミュニティーマネジャーの存在もポイントだ。
その一人であるボリス・アファナセフ氏は、22年4月にロシアから移住。もともとはロシア国内で弁護士として活動していたが、情勢の変化に伴って日本へ移り住んだ。「イズモノマドに集まる人のハブになり、地域内外を問わずコミュニケーションを生み出していきたい」と意気込みを語る。生粋の“モスクワっ子”といい都会人を自称するが、自然も豊かな出雲の雰囲気にひかれ、海鮮のおいしさにも魅了されているという。
すでにイズモノマドには、横浜市に拠点を置く企業の入居も決まっている。地場企業だけでなく、関東に本社を置く企業などの入居も進めば、これまでにないコラボレーションも生まれていくはずだ。IT人材の高度化においては、集積とともにコミュニケーションの場作りなども欠かせない。その意味で、松江市がRubyに関する取り組みの初期で拠点を設立したことは大きかったはずだ。出雲市にもイズモノマドができたことで、国外人材も交えたスキルの高度化や、これまでにないプロダクトの登場が期待される。
県内人口こそ、他都道府県と比較して後れを取る島根県。一方で、Rubyと縁結びの2つは、島根にしかない強みだ。PCどころではなく、IT活用におけるさまざまなメリットを有しながら、さらに魅力を高めるためにどのような取り組みを広げていくのか。今後の趨勢(すうせい)に目が離せない。
フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
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