この記事は、『ユニクロの仕組み化』(宇佐美潤祐著、SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
私が担当していた教育部門にも原理原則があります。人材を育成するための原理原則です。私の入社時にはありませんでしたが、各部門で原理原則を整備する一環で、グローバルのFRMIC(Fast Retailing Management and Innovation Center、ユニクロの経営者・人材育成機関)の仲間と議論を重ね自らつくりました。この原理原則は大きく3つに分けられます。
1つ目は、「現場と一緒になって、現場の課題解決に資する」です。ユニクロは店が主役です。現場に課題の全てが詰まっています。座学だけでは限界があるので、本部も現場とともに考えることこそ、教育の本質になります。この原理原則は非常に大切にしていました。
2つ目は、「『全員経営』の考え方に基づいて、一人一人が経営者マインドを持った人を育成する」です。
私が何度も強調してきましたので、「ユニクロといえば全員経営」とみなさんも理解されてきたころかと思います。ただ、「全員経営」を掲げているだけでは実現できませんので教育では実践のための仕組みを用意します。店舗スタッフから経営者(ユニクロの経営者はせまい意味では執行役員以上です)に至るまで、全階層で全員経営を実現するためには、「教育部門こそ常に全員経営を意識せよ」という原理原則です。
最後の1つは「グローバルでよい取り組みの事例(ベストプラクティス)を共有して、グローバルで首尾一貫した高品質の教育を実践する」になります。
教育の原理原則は私が責任者を務めていたからというだけでなく、ユニクロの根幹をなすものでもありますので、詳しくお伝えします。
まず、「現場と一緒になって、現場の課題解決に資する」です。
一昔前の教育部門は研修のプログラムをつくって、実施することが仕事と見なされていました。今でもそういう会社は少なくないでしょうし、ユニクロも昔はそうでした。
今のユニクロはかなりユニークな考え方をしていて、座学研修にそこまで重きを置いていません。現場の課題解決に役立ってこそ教育なのではないかという考えが浸透しています。
現場の課題解決は、もともとは、私たち教育部門が集合研修的なことを企画・運営するだけではなく、教育部門のメンバーでそれぞれ担当する地域を決めて、定期的に現場を訪問することから始まりました。担当役員ブロック長や、スーパーバイザー、店長と話して、店舗の課題を洗い出し、解決しながら、人材育成につなげていました。それを原理原則に落とし込んだ形です。
もちろん、教育部門でできることは限られています。当初私が責任者を務めていたFRMICはたったの3人でした(最終的には100人以上になります)。
成果が目に見えてきたこともあり、全店で取り組める仕組み化を行い、店舗課題解決ダイレクトミーティングという形にして、繁忙期を除いて月に1回日本中の店長に集まってもらい、ブロックごとに本部の役員や部長、課長にも参加してもらって、各店長の課題をその場で解決できる体制を整えました。
こうした「現実の課題」→「解決」の場数を踏むことが店長の何よりの教育になったのです。
ユニクロでは本部の位置付けは組織ピラミッドの下辺です。本部と聞くと三角形のピラミッドの最上部に位置するイメージを抱きがちですが、上ではなく、下で支えるのが本部です。
本部のことをユニクロではSSC(Store Support Center)と呼んでいますが、“お偉いさん”ではなく真に店舗を支援する存在になろうとしています。
「お店は主役」は見せかけのポーズではなく、企業の仕組みが本当にそうなっているのです。
現場に入り込んで解決する課題はオペレーションだけではありません。モチベーションをいかに高めるかも大きな課題です。社員の心に火をつけるのも、教育部門の重要なミッションでした。
みなさんの会社の部署やチームにも、常に斜に構えていたり、やる気がなかったりする社員はいるはずです。
ただ、こうした人が店舗レベルで一人でもいると、一体感は大きく損なわれます。ですから、そうした店舗に出向いては、店長も店舗スタッフも交えて本音で語り合って、全て吐き出してもらう場を設けていました。
もちろん、吐き出しただけでは改善されないので、次に向かってどうするか、何を修正するかをみんなで一緒になって考えていました。
国内だけとは限りません。例えば、ある国の事業責任者から相談を受けたことがありました。
その国では定時になったらすぐに帰る人がほとんどです。別に定時に帰ること自体は悪くはないですし、会社としても推奨していますが、「ここは頑張らなければいけない」というときも、仕事に全力投球しない(もちろん、個人差はありますし、私の個人的な印象です)傾向があり、店舗の運営基準も世界各国と比べると低い傾向にありました。
要請を受けて私も現地に行ったのですが、確かに緩い。「どうしようか」と考えたときに思い付いたのが、英国のFRMICのハリンダーという女性社員にその国に来てセッションをしてもらうことでした。
というのも、私が少し現地を見た感じでは、「日本人が説明したところで、きちょうめんな日本人が何か言っているくらいにしか思われず、心に響かないのでは」と思ったからです。
ハリンダーが英国で実現している店舗オペレーションの基準は「ハリンダースタンダード」とも呼ばれ、グローバルのお手本になるレベルのものでした。わざわざロンドンからその国まで飛んできてもらって、高い基準を掲げる大切さを語ってもらい、自分事化するワークショップを通じて、その国の店長のマインドセットが明らかに変わりました。
「教育」というと、「どんなプログラムを用意するべきか」「そのプログラムをどのくらいの頻度ですべきか」に議論が行きがちです。もちろん、ユニクロにも座学や研修はありますが、そこはメインではありません。
あくまでも原理原則で「現場に入り込む」と明示することで、現場の課題解決をしながら人材を育成する姿勢を常に意識しているのです。
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