組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
厚生労働省による「令和5年簡易生命表」によると、0歳の男の子の平均余命は81.09年、女の子は87.14年となりました。これは「平均寿命」として毎年発表され、広く使われます。一方、健康寿命は男性が73.08歳、女性が75.90歳で、これは0歳の子が、平均的に何歳で「健康上の理由で日常生活に制限がある」状態になるかを意味します。
この2つの数字を使って、「平均寿命と健康寿命の差は、男性が8年、女性が12年……」という具合に、介護や介助を要する期間が、かなり長いことを強調する広告をよく目にします。しかし、高齢者に関する研究活動を行う筆者が忘れてはいけないと考えるのは、これは「0歳の子」の話であるということです。高齢者には関係がありません。
このような広告を、高齢者にとって意味があるデータを使って変更すると、次のようになります。
まず余命について、同じく「令和5年簡易生命表」を見ると、65歳の人の平均余命は男性が19.52年、女性が24.38年ですから、65歳の男性は「84.5歳」、女性は「89.4歳」まで平均的に生きます。次に健康寿命について、「要介護2」以上になるまでの期間(日常生活動作が自立している期間=平均自立期間)を見ると、65歳の人の平均自立期間は男性が79.7歳、女性が84.0歳です(公益社団法人 国民健康保険中央会の発表データより)。
この2つの数字を使って同じように言えば、「65歳の人の平均余命と平均自立期間の差は、男女とも5年くらい」となります。つまり、よく広告で示される年数は、高齢者の実際とは男性で3年、女性で7年も差があるわけです。また、公益財団法人生命保険文化センターが発表した「令和3年度生命保険に関する全国実態調査」によると、「平均介護期間」は5年1カ月ですから、やはり先述の「平均寿命と健康寿命の差は、男性が8年、女性が12年……」というのは、高齢者の実態とは全く違うといってよいでしょう。
確かに、0歳の子の平均寿命と健康寿命を使っているので、「間違っている」とはいえません。しかし、その広告を0歳の子や小さな子どもたちが見ているわけではありません(そもそも子どもが平均寿命や健康寿命に関心を持っているはずがありません)。高齢者を対象とした広告において、0歳の子の数字を使うのが果たして適切なのかどうかは、考えてみる必要があると思います。
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