日本製鉄には、勝ち筋の可能性はないのか USスチールの買収計画(1/3 ページ)

» 2025年01月12日 08時00分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
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日沖博道氏のプロフィール:

 パスファインダーズ社長。30年にわたる戦略・業務コンサルティングの経験と実績を基に、新規事業・新市場進出を中心とした戦略策定と、「空回りしない」業務改革を支援。日本ユニシス、アーサー・D・リトル等出身。一橋大学経済学部、テキサス大学オースティン校経営大学院卒。


 日本製鉄(以下、日鉄)による米鉄鋼大手USスチール(以下、USS)の買収計画に対しバイデン大統領が禁止命令を出したことを受け、日鉄はUSSと連名で6日、バイデン氏や対米外国投資委員会(CFIUS)など米国政府を相手取り、禁止命令を無効とし法的義務を果たす審査を改めて行うよう求める行政訴訟に踏み切った。

 日鉄とUSSは併せて、競合である米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス(以下、クリフス)とそのCEOであるローレンソ・ゴンカルベス氏、全米鉄鋼労働組合(USW)のデビッド・マッコール会長に対しても、買収計画を阻止するために反競争的で組織的な違法活動を行ったと主張して提訴した(こちらは民事訴訟)。

 禁止命令により買収計画を放棄する期限が2月2日とされるので、近日中に日鉄は禁止命令が訴訟中は発効しないように米裁判所に指し止めを請求する予定だという。少なくとも当面の時間稼ぎをするのに必要ではあるが、この請求が「門前払い」される可能性もある。

 仮に指し止め請求が受け付けられて禁止命令の発効を先送りすることができたとしても、大統領相手の行政訴訟は分が悪く勝訴できる見込みは小さいし、この類の裁判が早期に決着する可能性は非常に低いと、米国の法律実務に詳しい人々の多くが指摘している。

 日鉄がUSSと合意した買収に関する契約では、今年6月までに買収が完了しなければ日鉄がUSSに5億6,500万ドル(約890億円)の違約金を支払う義務が生じる可能性があるとのことだ(なお、これは米規制当局の審査で買収が認められない場合の違約金なので、大統領令による買収不成立の場合の扱いは微妙だ)。

 日鉄とすると、高額な違約金と弁護士費用を支払った上で敗訴する可能性が小さくない。そして日鉄が排除された後に、とり残されたUSSに対して(一度は買収提案を拒否された)クリフスが再度買収を持ち掛ける可能性が高く、他に生き残り方法がなくなったUSSは受諾するかもしれない(独禁法適用を逃れるために大規模な工場閉鎖も受け入れることになるが)。

 そうなれば日鉄とすると、高額な違約金という「塩」を敵に送った格好で北米での展開を邪魔されてと、まさに踏んだり蹴ったりだ。

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