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知らない「流行語」が増えていく現象、なぜ起こる?廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(2/2 ページ)

» 2025年02月06日 08時30分 公開
[廣瀬涼ITmedia]
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なぜ、「トレンドランキング」にバラつきが生まれるのか

 さて、マーケティング会社のビーウェルが大学生603人を対象に、流行語大賞に選出されたトップ10の言葉の中から「(大学生を含む)Z世代」の流行語を調査している。

 結果を見ると「ふてほど」は91%が「あまり流行していなかった」と答えている。逆に流行った流行語として「界隈」、Creepy Nutsの楽曲『Bling-Bang-Bang-Born』、Netflixドラマ『地面師たち』のセリフ「もうええでしょう」がベスト3に選ばれている。

Z世代の流行語(画像:ビーウェル「大学生に聞いた本当に流行った流行語は?」より)

 上位3つは「ふてほど」よりかは納得感があるが、他社が発表している若者トレンドと比較するとどうか。

 まず、AMFが発表した「JC・JK流行語大賞2024」。対象はZ世代とα世代の女子中高生で、2024年7〜11月のトレンドをまとめた「2024年の流行語大賞」を「ヒト・モノ・コンテンツ・コトバ」の4部門に分けて発表している。

JC・JK流行語大賞2024(画像:AMF「JC・JK流行語大賞2024」より)
JC・JK流行語大賞2024 上半期(画像:AMF「JC・JK流行語大賞2024」より)

 カテゴリーごとに何が流行ったのかを発表しているため、選ばれているモノが多い。また、2024年上半期の「バショ部門」が下半期では「コンテンツ部門」になっている点を留意した上で結果を見ていくと、ビーウェルのランキングで1位だった「界隈」は上半期の段階でコトバ部門1位になっており、下半期ではコンテンツ部門として「自然界隈(自然のあるスポットに出向き自然を楽しむ界隈)」「当たり前界隈(当たり前のことをミームとして動画で紹介する界隈)」「ママ界隈(「ママ―!」と言っているような鳴き声の動物の動画をミームとして消費する界隈)」と、上位3つが界隈の中でも存在感のあった界隈(コンテンツ)として選ばれている。

 この1年間何かしらの共通項をもとにコミュニティを形成したり、コミュニケーションを取ったり、帰属欲求を満たしたりなど、「界隈」という言葉を用いて自身が交流したい相手を選別することがトレンドであったことが分かる。

 また、実際に消費されるコンテンツ以外にも、風呂に入りたくない、何らかの理由で入れない人々が使っていた「風呂キャン界隈」のように何かしらの価値観を共有するという目的で使われることも多い。2位の『Bling-Bang-Bang-Born』も上半期にヒト部門として「Creepy Nuts」が入っていることから納得感がある。

 唯一3位の「もうええでしょう」は、ノミネートはされていたが上半期・下半期併せて10個の言葉が選ばれるにもかかわらず、その中にはランクインしていない。あくまでも推測だが『地面師たち』自体が鑑賞推奨年齢16歳であることもあり、ネットでは多くのミームとして散見されたが、元ネタに触れている人々が多くはなく、主体的に流行しているモノとして消費していなかったのかもしれない。

 次にウィゴーが運営するWE LABOが発表した2024年の「Z世代が選ぶ“界隈別”トレンドランキング」を見てみよう。このランキングではZ世代15万人が流行していると思ったものを8つの界隈に分け「モノ・コト部門」「コトバ部門」「タレント部門」「ファッション部門」「グルメ部門」「キャラクター部門」「ガチャガチャ部門」の7つの部門ごとに発表している。

Z世代が選ぶ“界隈別”トレンドランキング(画像:WE LABO「Z世代が選ぶ“界隈別”トレンドランキング」より)

 そもそも界隈ごとにランキングを出していることが、若年層における界隈という言葉の広がりを示唆している。一方でタレント部門の「Creepy Nuts(Bling-Bang-Bang-Born)」、コトバ部門の「もうええでしょう」は共に選外だ。

 詳しく見ていくと、「JC・JK流行語大賞2024」で選ばれていた「ILLIT」(上半期ヒト部門1位)が韓国界隈における1位として選ばれている。ただその他の界隈ではランクインしていないことから、あくまでも韓国コンテンツが好きな若者からは支持を受けていたが、界隈外からは流行っているモノとしては認識されていないことが分かる。

 また、WE LABOのランキングのJK界隈とガーリー界隈で1位となっている「BeReal」は「JC・JK流行語大賞2024」では選外であるものの、2023年版を見るとモノ部門1位に選ばれていた。RECCOOが2023年に行った「SNSの利用状況」調査によれば、BeRealの利用率は49%と、TikTokとほぼ同じ数値となっている。

Z世代に聞いた、使っているアプリ(画像:RECCOO「SNSの利用状況」より)

 同じZ世代の中でもBeraelを流行ではなく、定着と捉えている層も増えているのかもしれない。

 一方で部門ごと・界隈ごとにランキングを出しているのは、それこそILLITの例からも分かる通り、界隈内と外で流行しているという評価に大きな差が出てしまうからだ。

 それでもグルメ部門をみると「アサイーボール」が7つの界隈で1位を獲得しており、当アンケート対象者においては「アサイーボウル」が普遍的に流行っていたモノとして界隈を越えて認識されていたといえるだろう。

Z世代が選ぶ“界隈別”トレンドランキングのグルメ部門(画像:WE LABO「Z世代が選ぶ“界隈別”トレンドランキング」より)

 しかし、JC・JK流行語大賞においては2024年、2023年共に選外だ。ランキングを決めている選考メンバーがトレンドのリサーチが得意な全国の女子中高生とのことで、それこそそのような選考者(調査対象)が身を置く界隈がランキングの内容に影響が出やすいということも若者のトレンドランキングの結果に差が出る要因なのかもしれない。

 次は、マイナビが運営するマイナビティーンズラボが発表した「【2024年】10代女子が選ぶトレンドランキング」だ 。当ランキングでは2024年に流行した「ヒト・コト・モノ・コトバ・ウタ」の5ジャンルについて、13〜19歳の女性609人を対象に調査をしている。

【2024年】10代女子が選ぶトレンドランキング(画像:マイナビ「【2024年】10代女子が選ぶトレンドランキング」より)

 他の調査同様に「界隈」はコトバ部門で選ばれている(風呂キャンセル界隈)が、『Bling-Bang-Bang-Born』「もうええでしょう」は選外だ。

【2024年】10代女子が選ぶ流行ったコトバ(画像:マイナビ「【2024年】10代女子が選ぶトレンドランキング」より)

 このランキングを詳しく見ていくと、ヒト部門1位を獲得したのは「Mrs. GREEN APPLE」で、WE LABOの調査でもJK界隈におけるタレント部門の2位を獲得している。また、3位の「出口夏希」もWE LABOの調査でJK界隈におけるタレント部門の3位だ。ちなみにJC・JK流行語大賞においては2024年、2023年共に選外だ。

 一方でコトバ部門10位にランクした「ほんmoney」は、JC・JK流行語大賞のコトバ部門で1位、WE LABOの調査ではY2K界隈、ガーリー界隈で2位、三次元オタク界隈で3位に選ばれている。さまざまな界隈で使用されていた若者の間で広く流行した言葉といえるのかもしれない。

 最後に、SHIBUYA109エンタテイメントが運営する若者マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」が15〜24歳の女性519人を対象に実施した「2024年トレンド調査」を見てみよう。こちらの調査でも『Bling-Bang-Bang-Born』と「もうええでしょう」は選外だが、『Bling-Bang-Bang-Born』はノミネートされていた。

SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2024(画像:SHIBUYA109 lab.「SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2024」より)

 詳しく見ていくと、カフェ・グルメ部門はWE LABOのグルメ部門で1位を獲得した「アサイーボール」が1位だった。また、韓国界隈で1位だった「ILLIT」もアーティスト部門で1位だ。

ノミネート一覧(画像:SHIBUYA109 lab.「SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2024」より)

 ここまでいろいろな調査機関が発表した若者の流行ランキングを見てきたが、各ランキングでばらつきがあることが確認できた。その理由はWE LABOが界隈ごとでランキングを分けている通り、界隈で流行っているモノに差が生まれるからだ。

 また、対象が女子中高生だけなのか、大学生なのか、男性を含むのか、年齢は何歳までが対象なのかと、界隈だけでなく聞いた相手が誰なのかも結果に大きな差異を生む要因だろう。これらの調査は雑に言えば「Z世代」が対象と言える(α世代が含まれているものもある)。われわれはZ世代をZ世代として1つにくくって議論しがちだが、そもそも1996〜 2012年の17年間に生まれた層全てをくくって呼んでいるわけであり、Z世代という層の中でも価値観に差異が出るのは当然だ。上はアラサー、下は中学生なのだから。

 加えて、WE LABOは便宜上界隈を8つに分けているが、実際は無数の界隈が存在するわけであり、この8つの分類に当てはまらなかった層にとってはランキングに納得感はないだろうし、そのようなトレンドに興味がない人にとっては、どれもその前の世代が感じているように「どの言葉も知らない」といった感想を持つだろう。

 冒頭で述べた通り、さすがに「ふてほど」ほどではないが、Z世代が対象のランキングであったとしても、全てのZ世代に納得感を持ってもらうのは不可能なのだ。同じZ世代ですらわからないのだから、それ以前の世代にとってはお手上げだろう。

多様化する興味関心 企業の適切なアプローチは

 興味関心の多様化により、個人(界隈)によってトレンドが変わるということは、例えば「渋谷系・原宿系」「今女子高生で流行っているモノは」といった具合にターゲットのペルソナ化が困難であることを意味している。

 企業は自社の商品やサービスを購買している界隈の消費者がどのような背景で自社商品を購買しているのか、また、その界隈と重なり合う他の界隈を知ることで、重なり合う界隈へのアプローチを検討することが市場の拡大につながると考えられる。

 また、前述した風呂キャン界隈においては、風呂に入りたくない、もしくは何らかの理由で風呂に入ることが困難な人々が「風呂に入らない」という共通項を基に帰属意識や共感意識を満たしていた。そのような界隈がSNS上で可視化されていくことで、併せて風呂に入らない人向けの商品にニーズがあることも可視化され、昨年の夏は若者が多く集う街に出店しているドラッグストアでは専用のコーナーを設けさまざまなドライシャンプーが陳列されていた。

 最後に、筆者も例年このようなランキング結果を研究で大いに活用はしているが、「全てのZ世代」に当てはまるという見方はせずにその世代にみられる特徴的な消費文化の一つとして消化している。ランキングをそのような特質すべき消費文化をまとめられたものとみなし、それぞれがどの界隈で、どの年代によって主に消費されているモノかと見ていくことに意味がある。

著者紹介:廣瀬涼

株式会社ニッセイ基礎研究所 研究員。専門は現代消費文化論。オタクの消費を主な研究テーマとし、10年以上彼らの消費欲求の源泉を研究している。昨今では自身の経歴を活かし若者(Z世代)の消費文化について研究を行い、講演や各種メディアで発表している。NHK『所さん!事件ですよ あなたの知らないニッポンが見える』、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、TBS『マツコの知らない世界』、日本テレビ『News every.』、テレビ東京『60秒で学べるNews』『Newsモーニングサテライト』などに出演。著書に『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか: Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)、『タイパの経済学』(幻冬舎)がある。瀬の「頁」は正しくは「刀に貝」。

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