この記事は、榎本博明氏の著書『「指示通り」ができない人たち』(日経BP 日本経済新聞出版、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
就職の採用試験の際にコミュニケーション力を重視するという企業が多いが、それは人とのコミュニケーションが苦手な若者が増えているからだ。誰もが人とのかかわりの中で生きてきているはずだし、そうした経験を通して自然にコミュニケーション力が身についているはずだと思っていると、どうもそうではないケースが目立つようになった。
そんなコミュニケーションが苦手な従業員に手を焼く管理職は、つぎのような悩みを口にする。
「最近、他の部署から異動してきた若手がいるんです。うちの部署は顧客対応が必要なんですけど、どうもそれがうまくいかないんです」
『これまでは顧客対応をしないで済む部署だったんですか?』
「そうなんです。だから、はじめのうちは先輩たちの対応する様子を観察して学ばせることにしたんです」
『それは大事ですね。初めての職務だと、どう振る舞ったらよいか分からないでしょうからね』
「ええ。それで、そろそろ実践の場に出しても大丈夫かと思い、担当させてみたんです。そうしたら、一応コミュニケーションはできてるんですけど、身近で様子を見てる同僚たちによれば、ちょっと言い方がきつかったり、相手がカチンと来るんじゃないかと心配になるようなことを平気で言ったりするので、ハラハラするって言うんです」
『相手の気持ちに配慮した言い方ができていないという感じですか』
「ええ、そうです。それで本人にその点を指摘して注意したんです。でも、どうもよく理解できないみたいなんです。具体的な事例をあげて、もう少し相手の気持ちを考えて言い方を調整してほしいと言ったんですけど、『何でもはっきり言ったほうが分かりやすいと思うんですけど』なんて、かなりずれたことを言うんです」
『言われた人の気持ちを想像することができないんですかね。だから言い方を調整する必要を感じない。それで、あいまいな言い方をするより、はっきり言ったほうが分かりやすいということばかり意識してしまう、っていうことでしょうか』
「あー、そんな感じなんでしょうね。だからなんでしょうけど、言い方に気を付けるように言われても、どう気をつけたらよいのか分からないから、定型文をください、なんて言うんですよ」
『定型文ですか』
| 筆者プロフィール:榎本 博明(えのもと | ひろあき) |
|---|---|
MP人間科学研究所代表、心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学助教授等を経て、現職。
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