小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。
今、米国のリテール業界では、ドナルド・トランプ大統領の再任に伴い、多様性、公平性、包摂性(DEI)を巡る大きな転換期を迎えています。
ウォルマートをはじめとする小売大手などが相次いでDEIの取り組みを縮小する方針を表明しています。一方で、日本でもなじみのある会員制量販店のコストコのように、反DEIの流れに真っ向から対峙しようとする企業も存在します。
DEIをめぐる米国企業の動向は、日本企業にとっても無関係ではありません。自社ブランディングや人材採用などの観点から、今後再考を迫られる可能性も考えられます。今回は、米リテール業界における反DEIの動きや各社の対応、そして日本への影響について考えたいと思います。
2025年1月20日、トランプ大統領は就任初日に連邦政府内のDEIプログラムを廃止する大統領令に署名しました。これにより、政府機関のみならず、多くの民間企業にもDEI施策の見直し圧力が増しています。
例えばウォルマートやターゲットなどの大手小売企業は、保守派からの圧力や法的リスクを理由に、DEIプログラムの縮小や廃止を発表しました。
これらの動きは、トランプ政権の政策転換や保守派の圧力、そして法的リスクの回避を背景にしています。
反DEIを掲げる活動家が、DEIプログラムがマイノリティの出自を持つ人々に不当な優位性を与えていると主張している一方で、DEI推進派は、縮小や廃止によって企業が不平等を助長し、社会的責任を放棄していると批判しており、対立が深まっているのが現状です。
このような中、コストコがこの反DEIの潮流に逆らい、DEIプログラムを堅持する姿勢を示し、注目を集めています。同社の取締役会は、DEI施策が収益にどのように貢献しているかを強調し、従業員やサプライヤーの多様化が人材の獲得や商品開発の革新を促進し、顧客の満足度向上に寄与していると述べています。
コストコのDEI施策には、以下のようなものがあります。
(1)幹部報酬とDEI目標の連動:幹部のボーナスの一部をDEI指標などの社会的目標に連動させることにより、経営陣がDEIの推進に積極的に関与するインセンティブを提供
(2)従業員データの公開:性別や人種・民族別の従業員データを公開することで組織内の多様性の現状を透明性高く示し、改善点を明確にする
(3)チーフ・ダイバーシティ・オフィサーの設置:チーフ・ダイバーシティ・オフィサー(最高多様性責任者)を設置し、DEI戦略の策定と実行を統括(多くの企業は、この役職を既に廃止している)
(4)サプライヤーの多様化:商品開発において多様なサプライヤーとの協力を推進することで商品ラインアップの革新を促進し、顧客に多様な選択肢を提供
コストコは米19州の共和党司法長官からDEIプログラムの撤回を求められましたが、これを拒否し、上記のようなDEI方針を維持する意向を明らかにしています。
コストコがこのように独自の動きを続けられる理由として、同社の企業文化や経営理念が挙げられます。コストコは創業以来、従業員を「最も重要な資産」と位置づけ、多様性を尊重する文化を築いてきました。このような企業文化が、外部からの圧力にも屈せず、DEI施策を継続する原動力となっているのです。
米コストコが「反・多様性」に堂々と“NO”を突き付ける理由Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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