「アマゾンがAI採用打ち切り、女性差別の欠陥露呈で」──こんな見出しの記事が話題になったのは、2018年10月のこと。女性差別に至った原因は、AIが学習したデータにありました(外部リンク)。
システム開発に際して担当者たちは、過去10年にわたって同社に提出された履歴書をAIに学習させたところ、合格者が男性中心だったためAIは男性の方が採用に適した人材と判断し、高く評価したことが原因でした。
あれから7年。コロナ禍で世界はいっきにデジタル世界に変貌し、ChatGPTを始めとする生成AIの登場でどこもかしこもAIだらけです。採用に関してもこうした欠陥を修正したAIが登場し、米国では多くの企業がAI採用を実施しています。その勢いは海を越え、日本でも「AI採用」に戦々恐々とする学生も増えているとか。
キリンホールディングスはすでに新卒採用に「AI面接官」を本格導入すると発表しています。2024年9月に転職活動を行った・または今後3カ月以内に転職活動を実施する予定の正社員を対象にした「企業が採用活動でAIを使うこと」への意識調査では、「応募・入社意欲が高まる」が37.0%で、「応募・入社意欲が下がる」(8.5%)と少数派を大きく上回りました。
おそらく今後は急速に、AI採用に踏み切る企業が増えることでしょう。
そこで今回は「AI採用の問題点」について、あれこれ考えます。
まずは、キリンが本格導入に踏み切った経緯から。キリンは2024年10月から「選考プロセスの効率化・最適化」を目的に、AI面接官を試験的に導入しました。
AI面接官は、経産省の「社会人基礎力」を基盤に候補者を多角的に分析し、学歴や経歴だけでは判断しきれないポテンシャルを可視化したところ、人事担当者の評価とかなり近い“人選”が得られたそうです(関連記事:「キリン、『AI面接官』導入 人事担当者と評価が『ほぼ一致する』理由とは?」)。
社会人基礎力とは、経済産業省が2006年2月に「社会人基礎力に関する研究会」の中間とりまとめの中で提唱した定義で、社会に出るまでに身につけておいてほしい能力です。
それまでは職場や地域社会で活躍するために必要な能力は、大人になる過程で自然に身につくものと考えられていました。ところが、日本社会の中でこうした能力を身につける仕組みの働きが著しく低下してしまい、わざわざ「社会人基礎力」を定義したのです。
具体的には、
──という、3つの能力に分類され、「主体性」「働きかけ力」「実行力」「課題発見力」「計画力」「創造力」「発信力」など12要素で構成されています(参考:2006年2月8日公表の経済産業省「社会人基礎力に関する研究会 中間とりまとめ」)。
経産省が社会人基礎力を定義したのは、学生のキャリア教育のゴールの一部を明確にすることが目的でした。しかし実際は、企業側が採用を行う際、その人材の良しあしをはかる、“モノサシ”に用いるケースが、2008年以降急増します。
引き金となったのはリーマンショックとグローバル化です。企業側が即戦力を求め、学問の府であるはずの大学が企業が求める「即戦力」に応えるためにハローワーク化したのです。
その「社会人基礎力」を基盤にしたAI採用で、本当にいいのか? というのが私の疑問です。
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