従来、会社員が自分の意志で離職した場合、失業手当が支給されるまで2カ月以上かかりましたが、4月1日以降はその期間が短縮されます。改正の背景、労働者や企業に与える影響について解説します(参照:厚生労働省 公式Webサイト)。
失業手当とは、雇用保険加入者が会社を辞めた場合に、失業中の生活の安定を図りつつ、再就職するための求職活動を容易にすることを目的に国から支給されるものです。
失業手当(雇用保険の基本手当・以下失業手当)を受け取るためには、離職後にハローワークで所定の手続きをする必要があります。倒産や解雇(懲戒解雇を除く)など自らの意志に反して辞めた場合と、自分の意志で会社を辞めた場合とでは、失業手当が支給されるまでの期間に差がありました。
解雇や倒産など会社都合により離職した人は、7日間が経過すれば失業手当の支給対象となりますが、自らの意志で会社を辞めた人は7日間に加え、2カ月の給付制限期間がありました。給付制限とは、失業手当が支給されない期間です。さらに給付制限期間を過ぎてもすぐに受給できるわけではありません。退職後3カ月程度が過ぎたときにようやくというところかと思います。
しかし、次の4月1日以降に会社を辞めた場合は、給付制限期間が2カ月から1カ月に短縮されます(ただし過去5年間で3回以上、自己都合で会社を辞めた人は制限期間が3カ月となります)。
さらに4月1日以降は、次のいずれかの訓練を離職日1年以内に受けた人、または離職後に受けている人は1カ月間の給付制限期間もなくなります。
教育訓練給付金とは、労働者の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図るための助成制度です。厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、教育訓練経費の一部が支給されます。フォークリフト技能研修などの現業系から情報処理系まで幅広い講座が用意されています。語学研修や社会保険労務士試験対策講座のような士業資格を目指すものも対象となります。
2つ目の「公共職業訓練など」と、3つ目の「短期教育訓練受講費」の対象となる教育訓練には、転職・再就職を推進するため職業訓練が該当します。失業中の人が対象となるものが多いですが、在職中の人も受講できるコースもあります。ハローワークが受け付けの窓口になるため、ハロートレーニングとも呼ばれています。
失業中の人は1カ月間の給付制限中でも教育訓練の受講を開始すれば、失業手当の支給制限が解除されるようになります。また自らの意志で会社を辞めた場合、失業手当が支給される期間は最長で150日ですが、公共職業訓練を受けることによりその期間を延長できるケースもあります。
給付制限期間を短縮したのは、労働者が安心して再就職活動を行えるようにするためです。「在職中に次の会社を決めてから転職する方がよい」というアドバイスはよく耳にしますが、日々の仕事に追われ転職活動をする余裕がないという人も少なくないでしょう。
ただ退職後から探す場合、生活費の問題が発生します。まとまった貯金がない人にとって、3カ月間も収入がなくなる状況は、家賃や保険の支払いや食費などの日々の出費もあるため、厳しいものがあります。このため、肉体的や精神的に赤信号が点滅しても会社を辞めずに働き続けて、体を壊したり、精神を病んでしまったりする人もいます。今の仕事が辛くてすぐに会社を辞めた人にとって今回の改正は朗報といえます。
また会社を退職して将来起業やフリーランスとして活動することを目指している人でも、並行して求職活動をすることで失業手当を受け取れます。
例えば、フリーランスのWebデザイナーとして企業の公式Webサイト変更の仕事を請け負った場合、納品までの数カ月間は報酬が入ってこないようなケースもあるでしょう。その間も家賃や保険の支払いなどがあるため、生活が立ち行かなくなる人もいます。よほど在職中から周到に準備した人以外、起業やフリーランス(個人事業主)の人たちは、独立してから数カ月間、出費はあるものの入金がない状態が続くこともあります。現役時代の給与よりも少ないとはいえ、失業手当がもらえるのは心強いものがあります。
ここまで労働者にとっての変化を解説してきましたが、企業側にもメリットがあります。高齢者の再雇用においても効果を発揮するというのが筆者の考えです。
高年齢者雇用安定法の改正により、4月1日以降、全ての企業に65歳までの雇用確保が義務付けられます。人手不足の中、年齢にかかわらず長く働いてもらいたい考える企業もありますが、やはり60歳を超えると体力的にも能力的にも難しくなる仕事も少なくありません。定年後の再雇用制度によって60歳以降は給与が下がり、働くモチベーションが下がってしまう人もいます。
大企業であれば、今の仕事を続けられなくなっても他の職種や部門に異動させられますが、そのような配置転換ができない中小企業もあります。また大企業のように転職する社員に対するリスキリング教育を実施する余裕がない中小企業でも、公共職業訓練であれば費用が発生しないため受講させられるでしょう。労働者の意に反した退職勧奨の手段として利用するのは好ましくありませんが、キャリアプランの選択肢の一つと提示するという観点では問題ありません。
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