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カインズのコンタクトセンター改革 「投資したのに効果ナシ」から脱却できたワケ(1/2 ページ)

» 2025年03月26日 13時40分 公開
[渡辺まりかITmedia]

 コンタクトセンター部門のオペレーターたちはかつて、自分たちの仕事を「電話番」だと認識していた──ホームセンター大手・カインズのカスタマーサービス部戦略企画室室長 中村康人氏はそのように話す。

 本来であれば、顧客の声を拾い、店舗の対応や商品開発に生かしていかなければならない重要な役割だ。それにもかかわらず、現場は日々の対応に追われ、業務効率化や対応の質の向上に本腰を入れて取り組む余裕がなかった。

 そんな状況から一転、2018年には大規模な投資によってCRMとクラウドPBXを導入。これで状況が好転する──と思いきや、実は期待していたほどの成果が出なかった。なぜなのか? 突き詰めると、そこには「人と組織」の問題が、大きく横たわっていた──。

 大規模投資で「ツールを入れただけ」では解決できなかった状況を、人や組織、そしてシステムの面から着実に改善していった同社コンタクトセンター部門の軌跡を、中村氏に聞いた。

「CRMもクラウドPBXも導入したのに」成果が上がらない……なぜ?

 カインズがコンタクトセンター部門にするきっかけとなったのは、同社が2018年に打ち出した「IT小売宣言」だった。経営陣の旗振りのもと、デジタル投資を積極的に行う土台が生まれ、2020年にはセールスフォース社のCRMと、外資系のクラウドPBXを導入した。

年表 創業時からの年表。カスタマーサービス部は2015年に設立されている

 しかし、予想していたほどには成果が現れないという状況が続いてしまう。その原因は「組織図」にあった。数年にわたって組織が五月雨式に統合されてきた結果、コンタクトセンター部門(当時の名称はカスタマーサービス部)の中でも「お客様相談室」「オンラインショップ」「カタログ通販」など、問い合わせの内容ごとに対応の担当者が異なる“縦割り組織”になっており、運用体制がバラバラだったのだ。

 このため「ある部署では忙しいのに、隣の部署では時間を持て余す」といった組織間の繁閑差が生まれていた。また、オペレーターとしての役割に専念するメンバーだけでなく、部署のマネジメントの役割を担う社員たちも電話を受けていたため、業務を整理する時間的な余裕がなかった。

 「道具があっても、人や組織が変わらなければ何も変わらない」(中村氏)。その思いが原動力となり、2021年に「コンタクトセンター改革プロジェクト」が発足した。

“縦割り組織”を大きく再編成 「戦略企画室」を新設

 まず着手したのは、縦割りだった組織をひとまとめにし、専門分野を撤廃したことだ。そして、オペレーターを“専門家”から“マルチ化”し、全員を顧客対応のスペシャリストと位置付けた。これにより、これまで繁忙期に備えて部署ごとに確保していた人員を削減できた。繁閑差の緩和にもつながった。

 また組織図の整理に伴い、社員を中心にスーパーバイザーやシニアスーパーバイザーという役割を設け、階層を明確化した。これによりオペレーターのフォロー体制が強化された。

組織改革 役割を明確化した

 さらに、従来はコンタクトセンター部門に属する人は社員であっても受電していたが、これが業務改善や対応品質の向上などを行う余裕を捻出できない理由であることは明らかだった。このため全く電話に出ない専門の組織「戦略企画室」を設けた。

戦略企画室 電話応対に忙殺されない戦略企画室を設けた。これにより全体を見渡し、企画を練られるようになった

 このような施策により、人数の適正化を図ることができ、70人ほどいたコールセンターの人員を50人にまで抑えられたという。

 一方で、オペレーターの立場で考えてみると、それまでは繁忙期はあったものの、閑散期に入れば気持ちに余裕が生まれていた。しかし部署の縦割りがなくなりマルチ化することで、平均して忙しくなる。また、専門分野以外の知識も持たねばならないため、負荷が増えると感じるかもしれない。

 「不公平感はなくなったものの、負荷が増えれば別の不満が生まれてしまう。そのようなことにならないよう、いろいろ工夫して時給を上げることに成功しました。これにより、批判的な声があまり出てこなかったのかなと考えています」(中村氏)

 また、店舗と共通だった人事評価基準を、独自のものに変更した。受電件数、平均処理時間や平均保留時間の短縮といった定量的な指標や、知識、向上心や思いやり(カインズの名称のもととなった「カインドネス」)といった姿勢、応対品質を評価基準に設定した。

独自の評価基準 コンタクトセンター独自の評価基準

 「『他のコンタクトセンターではどのような評価基準を設定しているのだろうか』『では私たちはどういうコンタクトセンターになりたいのだろうか』と議論し、ゼロから構築しました。独自の基準が設定されたことにより、オペレーターへの正しい評価ができるようになりました」(中村氏)

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