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カインズのコンタクトセンター改革 「投資したのに効果ナシ」から脱却できたワケ(2/2 ページ)

» 2025年03月26日 13時40分 公開
[渡辺まりかITmedia]
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使えるものは使い、使えないものは取り替える

 次に取り組んだのは、システムの活用やリプレースだった。

 導入済みであったセールスフォースのCRMにはさまざまなツールがあったものの、活用しきれていなかったため「使い倒そう」と意気込んだ。

 「トークスクリプト機能を使っていたものの、十分に活用できていませんでした。まずはその拡充をしました。それから音声認識システムを導入し、顧客とのやりとりを文字化。これにより履歴をすぐ検索できるようになりましたし、生成AIによる要約で振り返りも簡単に行えるようになり、全体の負荷を減らすことにつなげられました」(中村氏)

 また、従来利用してきたCTI(Computer Telephony Integration)もリプレースした。

 「顧客からの折り返し先になる発信番号を選べない、オペレーターが電話対応をしている稼働占有率を出すために自社でカスタマイズしたステータスの時間を、デフォルトデータに追加することで二重集計が生じてしまっていたのですが、これを防ぐすべがない、通話によって生じるデータ通信量での従量課金が利用料に追加されるなど、機能不足や高コストなどが、導入済みCTIに感じていた課題でした」(中村氏)

 そこで、自分たちの使い方にマッチした、かゆいところに手が届くCTIを探し、コムデザインのCT-e1へとリプレースした。発信番号を選べるので顧客が折り返したときに担当部署に一発でつながる、正確な稼働率や占有率を取得する、回線事業者を自由に選択することなどが決め手になった。さらに、他社へのソリューションとして提供ができるからという理由で新機能の開発費が無料というメリットもあった。

機能活用とリプレース セールスフォース内CRMが持つ機能の活用とCTIリプレースのメリット

 「前のCTIでは通話料ではなく通信料だったため、電話応対の多いコンタクトセンターではコストがかさんでいました。しかし、CT-e1ではツールの固定利用料は高いものの、通話料が一般の電話料金と同じ計算なので、全体では30%ものコスト削減につながりました」(中村氏)

効果 リプレースの効果

 稼働率や占有率を正確に出せるようになったことで、オペレーターごとに的確なフィードバックを行えるようになった。例えば、時間帯ごとにどの窓口の応答率が低いか、入電が集中しているかなどのデータを、オペレーターごとに把握できる。

 「2年ほど前から1on1を始めていましたが、以前はオペレーターさんからの愚痴を聞くことくらいしかできませんでした」と中村氏は振り返る。「でも今ではフィードバックの根拠となる数字が手元にあります。良くも悪くも常に見られているという緊張感を抱いて仕事してもらえるように変わったと感じています」とリプレースの効果を語ってくれた。

プロジェクトがもたらしたもの

 組織の再編、評価基準の再構築、CRM機能の活用、CTIリプレースなど、コンタクトセンター部門の改革を進めてきたカインズ。これらの取り組みで、どのような成果が生じたのか。

 一つの成果につなげられたのは、改革を始めて間もない2021年6月のことだった。「果実酒作りのために、果実酒瓶がよく出る(売れる)時期でした」と中村氏。「4人の方から、熱湯消毒をしたら、瓶が割れてしまったというお声をコンタクトセンターへいただきました。当日中にその内容を共有。熱湯消毒ができないことを説明したポップアップを製品前に掲示するよう翌日に指示を出し、その日の業務終了までに掲示し終えることができました」と当時を振り返る。

 「地味な事例かもしれませんが、同じ思いをされたのに、声を上げていらっしゃらない顧客がその背後に何十倍もいるはずです。VOCをいただくことの意味は、そのような顧客に寄り添うことでもあります。事実、翌年以降、同様の意見はなくなりました」(中村氏)

 こうした具体的なエピソードの他にも成果は多い。まずは、組織再編が完了した2022年9月以降、それまで部署間でばらつきのあった応答率が平均90%以上で推移するようになったことだ。

 さらに、商品や接客に対する全体的な問い合わせ件数が減ったにもかかわらず、クレームの占める割合が37ポイント減少し、一方でポジティブな意見の占める割合は4ポイント増加した。

 また、トークスクリプト機能や、その履歴の生成AI要約(音声要約)機能を活用することで、応対履歴の作成の所要時間を1件当たり240秒から120秒に減らせた。中村氏は、「音声要約を使う必要が全ての応対履歴にあるわけではないので、全体的に見ると半減まではいきませんが、それでも時間短縮につながっています」と解説した。

 コンタクトセンターの改革により、顧客の企業に対するイメージが上がったことは間違いない。「相関関係があるとは言いづらい」と中村氏は謙遜するものの、カインズの売上高は2021年から右肩上がりだ。

問い合わせ内容の変化 問い合わせ内容そのものへの変化も見られた

 「以前であれば『他の人が電話取る暇ないから、電話取ってね』という扱いだったコールセンターが、VOCを蓄積する重要な部署であることが理解されるようになってきました。そして生成AIの活用により、蓄積したVOCを分析する速度が上がりました。商品開発のスピードアップ、またサービス提供の質を高められるようになります。

 ここで育てた生成AIを店舗に展開することも可能になります。ボイスbotの発展型ともいえるAIアバター接客ができるようになるからです。コンタクトセンターとしての特異性、得意分野をリテールに反映させられるよう、これからも注力していきたいですね」(中村氏)

今後の展望 コンタクトセンターならではのノウハウの蓄積を店舗へと活用したいとの展望を抱く
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