出社させたい管理職、リモートしたい社員 板挟みで苦しむ人事部門はどうすればいい?

» 2025年04月03日 17時56分 公開
[HR Dive]
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 出社回帰を巡り、従業員と経営層の間で意見が対立している。企業側は、従業員の生産性や職場文化、チームの結束、さらにはオフィスの賃貸契約を理由に出社を求めている。一方、多くの従業員は、コロナ禍により導入されたリモートワークやハイブリッドワークの柔軟性を手放したくないと考えている。

 この対立により、従業員が退職し、リモートワーク可能な企業へ転職するケースが増加。人事部門は、従業員と経営陣の間で板挟みとなっているのだ。 こうした中で、人事部門が両者の橋渡しをするためにできることを紹介する。

「過去の経験」に固執するマネジャー、人事はどうすればいい?

 従業員に出社を求める圧力の多くは、管理職から生じている。管理職は、「直接目の届く範囲で部下を管理したい」と考える傾向があるからだ。

syussya 提供:ゲッティイメージズ

 米カーネギーメロン大学の組織行動学教授であるドゥニーズ・ルソー氏は「マネジャーは、目の前で管理できる環境に慣れている」と指摘する。部下の姿が見えず、リモートでのマネジメントに適応できていない場合、柔軟な勤務形態では組織が機能しないと決めつけてしまう。「彼らは過去の経験に縛られている」とルソー氏は述べる。

 しかし、一度定着した考えを変えるのは容易ではない。たとえ、リモートワークの方がストレスを軽減し、生産性を向上させるという研究結果が示されても、管理職が主観的な判断に頼っている限り、現状維持の姿勢を崩すことは難しい。

 この状況を打開するには、企業内の客観的なデータを活用し、柔軟な働き方が生産性向上に貢献していることを示すことが有効だ。管理職がリモートで適切に部下を管理できるよう、研修やスキル開発を行うことも重要である。ルソー氏は「これは現在、最も価値のある研修の一つだ」と述べている。

 さらに、全ての従業員がリモートワークを望んでいるわけではない点にも留意すべきだ。孤立感を避けるために出社を希望する従業員もいるが、これは個々の従業員の問題だ。「どのような働き方が自分に合っているのかを考えるべきだ。ただし、企業が強制的にオフィスに戻すことはできない」(ルソー氏)

求められる「柔軟な出社回帰」 重要なことは……

 全ての企業が出社回帰(Return to Office、以下RTO)を厳格に求めているわけではない。米Monster社の最近の調査によると、雇用主の75%が柔軟な勤務時間の重要性を認識しており、61%が柔軟な働き方の価値を認めている。

 同社のキャリア専門家であるヴィッキー・サレミ氏は「RTOが求められる中でも、勤務時間や勤務場所に柔軟性を持たせることは可能だ」と指摘する。例えば、夏季限定でフレックスタイムを導入したり、「サマーフライデー(夏季の金曜日の勤務時間短縮)」や「週4日勤務」などの制度を設けたりするのだ。 「根本的な問題は、従業員の定着率だ。従業員は強制的な出社回帰を望んでいない。そして、リモートワーク可の企業があることを知っている従業員たちは、自分の求める働き方ができる会社へ転職する可能性が高い」とサレミ氏は指摘する。

 また、同社の別の調査では、12%の労働者が「コーヒーバッジング(coffee badging)」を実践していることが分かった。これは、午前中の数時間だけ出社し、コーヒーを飲んだ後にリモートワークへ移行する働き方を指す。コーヒーバッジングという働き方を選択する理由として、以下のようなデータが示されている。

「キャリア成長のために出社とリモートワークのバランスを取りたい」(21%)

「リモートワークをより多く取り入れたい」 (21%)

「オフィスでの社交的な雰囲気を楽しみたい」(17%)

「通勤ラッシュを避けるため、混雑を避けて出勤・退勤したい」(14%)


 こうした状況の中で、人事部門の担当者は「リモートワークを希望する従業員」と「出社を求める経営陣」の間で板挟みになりがちである。 サレミ氏は「従業員が『自分は会社に理解され、声を聞いてもらえている』と感じることが重要だ。人事部門は、従業員の意見を聞き、その内容を経営陣に伝え、経営側が適切に対応するよう働きかける役割を果たすべきだ」と述べる。理想を言えば、人事部門が従業員の懸念を経営陣へフィードバックし、双方が納得できる妥協点を見つけることが望ましい。

 また、匿名で意見を出せる仕組みを設けることも「従業員が報復を恐れずに率直な意見を述べられる環境を整える上で有効である」とサレミ氏は提案している。

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