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大手で進む出社回帰 NECは「リモート可→チーム出社率40%」をどう実現したのか2万人のハイブリッド勤務

» 2025年03月25日 08時30分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 大手を中心に、出社回帰が進む。2万人を抱えるNECでは、2024年4月からチームの力を最大限に引き出すため、出社率40%を目安とする新しい働き方のガイドラインを導入している。

 この背景には、コロナ禍で浸透したリモートワークの弊害があるという。NECは2021年5月に発表した2025中期経営計画でエンゲージメントスコア50%を掲げている。こうした中で同社には、社員間のコミュニケーション不足やエンゲージメントスコアの組織間のばらつきといった課題があった。この課題解決のために「Face to Faceの活用」を前提とした働き方へのアップデートを促している。

 大企業を中心に、コロナ禍でリモートワーク導入が大きく進み、一部では生産性の低下を指摘する声も出てきた。一方で、出社を義務付けてしまう動きには、社員からの反発もある。NECではどのように働き方の変革を進めているのか。労働組合などとの折衝はどうだったのか。同社カルチャー変革統括部の担当者に聞いた。

左からNECカルチャー変革統括部のプロフェッショナル齊藤佳子氏、ディレクター山岸真弓氏、プロフェッショナル松尾敬信氏

「リモートワークは権利だ」という誤解も 「チーム出社率40%」にした真意

 NECがリモートワーク導入の検討を進めていた時期は、コロナ禍前の2019年までさかのぼる。当時は2020年に予定していた東京オリンピックに向けた混雑緩和策として、リモートワークを試験的に導入していた。同社がテクノロジーカンパニーとして、デジタルツールを積極的に活用する社内風土も後押しした。

 幸か不幸か、この準備が功を奏し、2020年のパンデミック時にはスムーズに全社リモートワークに移行できた経緯がある。しかし、長期化するリモートワークの中で、社員間のコミュニケーション不足や、エンゲージメントスコアの組織間のばらつきといった課題が浮上した。特に、新卒や中途採用者のオンボーディング(入社間もない社員のチーム順応を促進させる取り組み)において問題が発生し、チームへの適応がうまくいかないケースがあったのだ。また、一部には「リモートワークは権利だ」と誤解する社員も存在し、管理職がチーム運営に苦労する場面も増えていったという。

 こうした課題を背景に、NECではコミュニケーションの量・質・スピードを向上させる必要があった。会社としての戦略実行力を最大化するために2024年4月に「40%以上のFace to Faceの活用を前提に、チームで働き方を定める」という新しい働き方の指針を示した。現在も全社で働き方をアップデートしている最中だ。

 この「40%」という数字は、社内で高い価値を創出し表彰を受けたチームを、複数ヒアリングした結果から導き出したという。リモートワークによる生産性向上と、出社による対面コミュニケーション促進のバランスを考慮して、目安となる数値を設定した。チームでベストな働き方を導く対話も全社で実施したという。

 週40%とは、出社日で換算すると「週2日」に相当する。同社カルチャー変革統括部の山岸真弓ディレクターは、「週40%にするか、週2日とするかは非常に悩ましいところだった。本質としては、単純に週に2日出社すればよいということではなく、対面のほうが生産性の高い場合はチームで出社をするなど、チームで話し合い、ルールを定めること。何よりもチームでの対話の場を持つことが重要だと考えている」と話す。

 また、この40%は一律に定めているものではなく、チームごとの事情によって異なるという。業務の特性によっては、もともと出社率が高い組織もある。さらに、育児や介護など個別の事情があるメンバーを抱える組織も存在しているためだ。

NECのオフィス

フリーアドレスの弊害をどのように解決するのか

 一般的にリモートワークの導入が進むと、「自分の席」が必要なくなる。そのためNECに限らず、リモートワーク導入とフリーアドレス導入はセットで進むことが多い。

 NECも例に漏れず、リモートワークと同時期にフリーアドレス制を導入している。これによりオフィス環境は様変わりしたものの、「誰がどこにいるか分からない」という弊害が生じていた。NECだけで従業員が2万人おり、本社ビルだけでも約7000人が働いている。同社はまずこの問題に対し、フロア利用のルールを取り入れた。これは例えば「ある組織だったら何階」というように、組織単位でフリーアドレスの場所を大まかに決めるというものだ。

 また、出社をする際にはチームごとにある程度まとまり、お互い顔が見える形で業務を進めることを推奨している。ただし、チーム外のメンバーとのオンライン会議や、チームから離れて業務をする場合もあり、出社していたとしても常にそれを徹底しているわけではない。そのため、社内で対面のコミュニケーションニーズが生じた場合は、相手が出社をしているのかどうか、出社をしていた場合、どこに在席しているのか分かるようにする必要があった。

チームの出社状況(NEC提供)

 そこで同社では、自社のテクノロジーを含めさまざまな技術を生かし、オフィス内の混雑状況や座席利用状況を可視化するシステムを導入した。社員はスマートフォンやPCからアクセスできるダッシュボードを通じて、各フロアの混雑状況をリアルタイムで確認できる。これにより、混雑していないエリアを選び、効率的に業務を遂行できるようになった。

フロアの座席混雑率(NEC提供)

 社員が業務で利用するPCやスマートフォンを通じ、個々がおおよそどこにいるかもリアルタイムで分かるようになっている。山岸ディレクターは、「以前はチームメンバーの居場所をスケジューラーで把握することが多く、共有されていないと、どこにいるのかすぐに分からないことがあった」と話す。

NECのオフィス

労働組合の理解をどう得ていったのか

 人は誰でも、一度手にした環境を手放すことに抵抗感を示す傾向がある。そのため、フルリモートも可としていた体制から、チームの出社率40%への切り替えには、社員との対話を慎重に進める必要があった。

 まず、このチーム出社率40%のガイドライン導入に先立ち、2024年3月末に全社員向けのタウンホールミーティングの場を活用して、森田隆之CEOと堀川大介CHROが直接社員に向けて、新しい働き方の指針を説明した。チーム単位で働き方のルールを定めていく方針を強調。働き方をアップデートする目的や背景を丁寧に説明する場とした。

 労働組合との協議も進めた。NECグループでは労働組合員だけでも4万4000人が在籍している。チーム出社率40%の施策の実施にあたり、森田CEOを含めた経営陣は、中央労使協議会などで組合員とも議論したという。

 組合側も生産性向上に対して課題意識を持っており、組合員アンケートからも、生産性の高いコミュニケーションを取るためには、意識的に対面の機会を設けることの重要性をうかがえる結果も見られた。そのため、両者で共通の課題認識を持ち、スムーズに協議を進めることができたという。

 さらに4月から新しい働き方の施策を展開して以降も、6月、9月のタイミングで従業員サーベイ(Voice of Employee)を実施した。従業員サーベイの結果からは、会議室やモニター不足、ネットワーク環境の改善などの課題が明らかになり、オフィスフロアのリノベーションをはじめとする具体的な取り組みに結び付けている。

 4月からの施策実施を受けて、はじめの頃はいざ出社しても他のチームメンバーが出社しておらず、かえって効率が悪いと感じることもあったという。だが、チームメンバーの出社率が向上していったことで、社員が対面による生産性向上を実感し始めた。

 こうした背景もあり、「特に6月から7月にかけて出社する人の割合が増えていった」と山岸ディレクターは振り返る。6月の従業員サーベイのタイミングでは、「チーム間のコミュニケーションが向上した」という声が多かった。9月の従業員サーベイでは、その結果「戦略をチームでしっかり共有できるようになった」という声が多くなったという。

 まさしく、チームによる出社が進んだことで、会社として掲げる「戦略実行力の最大化 」の実現へと向かっていると言えそうだ。いざフルリモートも可にしたものの、どのように出社回帰させるべきか悩む企業も少なくない。NECのやり方は、一つのモデルケースになるはずだ。

NECのカフェテリア FIELD。ミーティングスペースとしても使用できるという

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