自治体DX最前線

曖昧さは権力の源泉――プロポーザル評価での「面談審査」で意識すべきポイントとは?(1/2 ページ)

» 2025年04月04日 08時00分 公開
[川口弘行ITmedia]

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著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)

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川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。

2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。

2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。

現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com


 こんにちは。全国の自治体のデジタル化を支援している川口弘行です。

 新年度が始まり、読者の皆さまの中には、新しい環境でのスタートを切った方も多いことでしょう。

 少し昔話になりますが、私は1995年に行政書士国家試験に合格し、その翌年の春、勤めていたコンピュータ会社を退職して自分の行政書士事務所を開業しました。今から約30年前のことです。

 行政書士試験の試験科目は憲法、民法、行政法などの法令知識と論述でしたので、基礎的な法令は学んでいましたが、実際の行政書士の実務はそんな知識だけではうまくこなすことができません。常に、依頼人と役所との間に挟まれて四苦八苦している毎日でした。

 特に当時の役所の窓口は、20代前半の私にとって畏怖の象徴のようなもので、提出する書類の不備を指摘されないかと身の縮まる思いで役所に向かったことを覚えています。

 今では隔世の感がありますが、役所(市役所だけはなく、県庁や登記所、税務署などもあります)の窓口はお昼休みには閉まっていることが当たり前。それどころか11時30分には午前中の受付を終えてしまうところもあり、少し遠い地域の役所では受付時間に間に合わず、午後の窓口開始まで身動きが取れない、ということもしょっちゅうありました。

 書類に不備があれば、再提出のために出直してくるのも当然で、その場の書類の修正も許してもらえません。オンライン申請どころか、郵送による申請も考えられない時代です。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 困ったことに、自治体ごとに手続きの考え方やルールが異なっていました。同じ手続きでも自治体が違えば解釈が変わり、ローカルルールのようなものが適用されることも少なくありません(ただし、許認可手続きの場合、許可権者は各自治体の首長であるため、ローカルルールの存在自体は違法ではありません)。そのため、ローカルルールに対応するための情報収集が必要でした。

 現在の行政機関では、まだ十分とは言えないものの、さまざまな不満が改善されてきているように感じます。このように少しずつですが、行政サービスが住民や事業者に向けて歩み寄っている「変化に気付く」ことも重要だと感じています。

曖昧さは権力の源泉

 今になって思えば、そこには役所側の論理というものがありました。この論理の根底にあったのは、「曖昧さは権力の源泉」だという事実です。

 これは役所と住民、事業者間の関係だけでなく、他の役所(都道府県や省庁など)との関係でも、役所内の職員との間においても成立します。

 そもそもあらかじめルールが明確に定められているのであれば、個々の出来事に対して、そのつど判断や解釈が求められることはありません。逆に判断や解釈を求められる側には意思決定権が生じ、これが権力という形になって、相手方の行動を規制することになります。

 ところが、この権力というものの主目的が、自らの存在価値を高めたり、権力に伴う便益を享受したりすることに変化すると、おかしなことになります。その結果、「権力を維持するために、曖昧さを保持し続ける」という主客転倒が生じるのです。

 昔の役所が曖昧さを抱えていたのは、それにより自らの存在価値(あるいは職員としての身分保障)を維持する効果があったから、というのが私の見立てです。

 ただ皮肉なことに、職員定数削減などにより、その曖昧さを支えるだけの資源が失われてしまったため、身動きが取れなくなっているというのが現在の姿なのではないかと思います。

 真偽は不明ですが、ある行政機関で、自分たちの能力では処理しきれない規模のプロジェクトを進めることがあったそうです。そこで、準備不足からなのか、熟度が低く、つじつまの合わない文書を配布してしまい、その文面の解釈について質問があった際に「行間を読め」と言い放った役人がいたと聞き、非常に驚きました。

曖昧さを保つことで権力維持してきた役所。デジタル化の時代は……?(ChatGPTで作成)

 もしこれが本当ならば、自らの力不足を巧妙に権力の源泉に転化させており、これが常態化することで、日本の行政は非常に危機的な状況に陥るのではないかと感じました。

 もうすでにお気付きかと思いますが、この曖昧さは、デジタル化と非常に相性が悪いです。つまりデジタル化を進めるためには、曖昧さを排除していく必要があるわけですね。そして曖昧さを排除していくことで、権力も次第に失われていく。もちろんその流れに抗うという未来もありますが、乏しい資源の中でうまくいくのかは疑問です。

 あるいは曖昧さを抱える役割として、AIなどにその立場を譲るという未来もあるかもしれません。その場合、AIが権力を持つことにつながるので、一部の人が考えるディストピアに一歩近付くことになるでしょう。

 このように、役所側が何をどのように考えているのかを理解し、次に何が変化していくのか、何が変化できていないのか、変化を抑制しているものは何かを考えられるようになったことが、私の現在のビジネスに生かされています。

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