米企業で小切手決済が急増 「デジタルより安全」は本当かPayments Dive

» 2025年04月22日 07時00分 公開
[Lynne MarekITmedia]
Payments Dive

 企業間の決済手段として長らく使われてきた手形や小切手。日本では、全国銀行協会が3月、手形や小切手の決済システムを2026年度末に終了すると発表。決済のデジタル化が一層進むことが予想されています。

 一方で、小切手文化が強く残るといわれる米国では、企業間決済における小切手の利用が再び増加しているといいます。2024年には、企業の9割以上が小切手を使った支払いを行っており、その割合は前年から大きく跳ね上がりました。なぜ今、小切手の使用が増えているのでしょうか。背景には、「紙の方が安全」といったセキュリティに対する誤解や、取引先との関係性といった複雑な事情があるようです。

 米ビジネスメディア「Payments Dive」のレポートを紹介します。

米国でなぜ、企業間決済における小切手の利用が増えているのか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 米国の企業において、紙の小切手(チェック)による支払いの利用が2024年、大きく増加したことが分かった。これは米金融専門家協会(Association for Financial Professionals、以下AFP)が実施した年次調査の結果によるもので、専門家たちもその背景の説明に苦慮している。

 AFPが2025年1月に財務部門やその他の金融部門の幹部を対象実施した調査では、支払いに紙の小切手を使用していると報告した回答者の数は、2023年の75%から91%に急増した。AFPが4月15日に公表した「不正防止および決済管理調査(Payments Fraud and Control Survey)」で明らかになった。

「デジタルより安全」という誤解

 AFPは毎年この調査を通じて、企業がどのような決済手段を利用しているか、そしてどのような不正に直面しているかを分析している。今回の結果について、AFPは「なぜ2024年に小切手の利用が急増したのか明確な理由は不明だ」としつつ、一部の企業が「紙の小切手の方がデジタル決済より安全だ」と誤解している可能性を指摘した。

 この調査によると、2024年には63%の企業が小切手を通じた不正を経験しており、小切手は依然として最も不正の標的となる決済手段であるという。ちなみに2023年は65%、2014年は77%と、全体としては減少傾向にあるものの、依然として高水準である。背景には、郵送中の小切手の窃盗増加に関する連邦当局の警告や、メディアによる報道が影響している可能性がある。

 AFPのエンタープライズ決済部門ディレクター、アンドリュー・ダイクラー氏は、「一部の企業は状況的に小切手の使用をやめられなかったり、小切手を主に使っている小規模な取引先と関わっていたりするため、仕方なく使用しているケースがある」と述べた。ただし、調査対象のうち取引の過半数を小切手で行っていると回答したのは、全体のわずか11%に過ぎない。

小切手の利用「減らす予定ない」7割超

 注目すべきは、小切手を用いた取引を今後2年間で減らす予定が「ない」と回答した企業が75%にも上った点である。これは、日々登場する新しい決済技術に対する戸惑いや不安から、従来慣れ親しんだ紙の決済手段に回帰する動きとみられる。AFPは「こうした経営者たちは紙の方が安全だと錯覚しているが、実際にはそうではない」と警鐘を鳴らしている。

 一方で、電子決済に関連する不正も急増している。米連邦取引委員会(Federal Trade Commission)によると、2024年における銀行振込に関する詐欺被害は4万7336件、被害総額は20億8000万ドルに達した。これに対し、小切手に関する不正は8098件で被害額は2億2500万ドルだった。件数・金額ともに電子決済の被害が上回っている。

 AFPの報告書でも、ビジネスメール詐欺(Business Email Compromise)を中心としたデジタル領域での不正に多くのページが割かれていた。回答企業の62%がこの種の詐欺に遭遇しており、これは2023年の66%からやや減少しているものの、依然として最大の脅威である。

 それでもダイクラー氏はインタビューで「われわれが財務担当者の視点から見る限り、詐欺師たちは依然として小切手を主要な標的にしている」と述べ、小切手の脆弱性を改めて強調した。

 こうした中、トランプ政権は小切手からの脱却を進めようとしており、9月末までに連邦政府による小切手の使用を完全に廃止する方針だ。関連する大統領令では、小切手が「不正に弱く、非効率的」であると明言している。

 なお、2024年に何らかの形で決済不正を経験したAFP会員の割合は79%で、2023年の80%とほぼ同水準だった。2015年以降、この割合はおおむね73〜82%の間で推移している。

 今回の調査には、米メリーランド州ロックビルを拠点とするAFPが、業種・規模を問わず521の企業担当者から回答を得た。

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