では、こういう問題があるにもかかわらず、なぜ日本の宿泊業は「1泊2食付き宿」が常識として長く定着してきたのか。
厳しいことを言わせていただくと、他のビジネスでは当たり前のようにやっている「利用者の立場になって考える」ということを観光業界ではやってこなかったことが大きい。
そもそもなぜ日本では世界的にも珍しい「1泊2食付き」が定着したのかというと、ユーザーメリットを重視したとか、市場調査をした結果などではなく、単に「江戸時代から続く商習慣だから」だ。
江戸時代、庶民にも旅行ブームがあった。お伊勢参りや「富士講」と呼ばれる富士山を信仰する人々による参拝などだ。その時に生まれたのが「旅籠」という食事付きの宿だった。
当時の旅行は、基本的に徒歩で毎日20〜30キロを歩くことはザラだった。というわけで、旅籠は基本的に「食べて寝る場所」だったのだ。しかし、それでは競合と差別化ができないので、旅籠側はより多くの客を取り込むため、宿独自の料理をアピールするようになったというわけだ。
では、そんな江戸時代の宿側の都合で生まれた「1泊2食付き」が、なぜ戦後も見直されずに踏襲されたのかというと、実はこれも「宿側の都合」が大きい。
戦後、高度経済成長で日本人が豊かになると再び旅行ブームが到来するが、このときは「団体ツアー」が人気だった。そこで問題になるのは食事だ。団体客が個々で食べたいものを注文すると旅館の厨房は大パニックになってしまう。しかし、「外で食べてください」ではもうからない。その解決策となったのが「1泊2食付き」だ。
「全ての宿泊客は、朝食も夕食も宿側が提供したものだけを食べてもらう」というルールをつくってしまえば、食材の仕入れや調理スタッフの補充などを計画的に行える。団体客を多く受け入れても、最小限の人員とコストでうまく回すことができる。
つまり、日本の旅館に「1泊2食付き」が定着したのは「おもてなしの心」などではなく、資本やマンパワーに乏しい旅館が、団体客などをさばくために編み出した「事業戦略」なのだ。
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