この記事は『利益を出すために重要な24の数式』(野本明著、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
私はいくつものブランド企業に従事しブランド力で利益を拡大することを目指してきました。そこで常に考えていたのは、顧客や社員はなぜブランドを好きになり、なぜそのブランドを選ぶのか、ということです。
「流行だから」「ロゴやCMや店舗がかっこいいから」という理由はあります。でも流行は移りロゴも変わります。その裏にもっと何かありそうです。それが創業者の魂ともいえる世界観の存在だったのです。
支持されるブランドの創業者の多くには「世の人々にこれを与えたい」という強い願望と、それを実現するための尋常ならざる努力があるものです。それが創業者の世界観です。
よく知られたところではシャネルの創業者ガブリエル(ココ)・シャネルやアップルの創業者スティーブ・ジョブズの名が挙げられますし、ディズニー創業者のウォルト・ディズニーもしかりです。
私の在籍したブランドでも創業者の逸話には事欠かず、それが伝説となり社員の尊敬の対象になっていました。この実体験を通じて、ブランドの本質は「創業者の世界観」にある、と確信するに至りました。
創業者の世界観への共感を得ることで、ブランドは流行や価格に左右されない強い力を手に入れることができます。それは社員や顧客とブランドとの間に生まれる「心の絆」です。
いくら高い機能でも理性的な価値だけでは感情まで揺さぶられることはありません。しかしそこに開発者の強い想いや長年の努力が見えたとき、人は感情的に共感を覚えます。それが商品を超えた「心の絆」を作ることになるのです。
食品の販売でも生産者の顔を見せることが増えていますが、その際安心だけでなく作り手の想いや努力が伝わってくるとすれば、それもブランド力だと言ってもいいでしょう。
心の絆ができるとブランドは強くなります。流行が移り変われば消費者は次の流行に移っていきますが、消費者とブランドとの間に心の絆があれば、簡単に他に移ることはありません。これがブランドを支える力になるのです。
ブランドを創るということは創業者の世界観を通じて心の絆を作ることなのです。
ブランドで利益を上げていくためには、ブランドの本質を伝えて広めなければなりません。その際注意すべきことは「伝える順序を守る」ということです。ここがとても大切なのです。
創業者が世界観を最初に伝えるべき相手は、ともに仕事をする社員です。まずは一番近くにいる社員が世界観に共感し同じ情熱を持ってその世界観を実現させるようになることが重要です。
社員に世界観を共有できたら、次に伝えるべき相手は社員から直接伝えることができる顧客です。単に表面的な情報だけでなくしっかりとブランドの本質を伝えていくことが必要だからです。
これには時間も労力もかかりますがそれをするだけの価値があります。ここがおろそかになると心の絆を育てることができないからです。
最後に社会、すなわちまだ商品を使っていない人たちへと伝えていきます。顧客から周りに広がっていくことが理想です。広告で直接社会に伝えることもありますが、その際はすでに絆を持つ顧客の存在がとても重要です。
この順序を飛び越えて、例えば広告で一気に社会にブランドを広げようとしても、流行にはなってもブランドの力である世界観の共有による心の絆を作り出すのは難しいのです。
ブランドの本質を伝えるためにもうひとつ必要なのは「ストーリー」として伝えることです。
ストーリーは目指す世界観を簡潔に分かりやすく伝えるための方法です。広告の一文、接客のひとことなどで、ブランドの本質が伝えられるようなシンプルなキーワードによる「ストーリー」を作ることがとても有効です。
ストーリーを使うことで創業者の世界観は社員には「ブランド・コンセプト」として、顧客には「ブランド・イメージ」としてより分かりやすい形で伝えていくことができるのです。
世界観のない表面的なイメージだけではブランドの意味がないのです。
そして最後にもうひとつ、一番大事なことが、ブランドを創る最終目標が粗利益だということです。
同等商品の市場価格より高い値付けをして高いマークアップを確保し、しかも値引・割引を一切せずに販売し、大きな粗利益を得る。この一見不可能に思えることを可能にしているものは何なのか。それがブランドであり、これこそが「ブランド価値」なのです。
ここでブランドと利益が明確に結びつきます。高い粗利益を実現することこそがブランドを創り、維持し、強化することの最大の目標です。ブランド創出が利益を最大化するための出発点であり、必要不可欠な要素であることが理解できるはずです。
Special
PR注目記事ランキング