この記事は『利益を出すために重要な24の数式』(野本明著、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
これは私の通販企業での経験です。そこではカタログで衣料品を販売していたのですが、毎回カタログの全商品の売り上げを分析し、5段階にランク付けしていました。3が平均で、平均を上回るとその度合いによって4、5と上がり、下回ると2、1と下がります。
すると、売れ行きの悪かったカタログでは爆発的なヒット商品がなく、せいぜい4止まり。すごく売れたカタログでは5ランクの商品が複数ある、といったことが分かってきました。最初は不思議に思っていましたが、毎回違う商品を扱う全く別のカタログであってもこの法則は不思議と変わりませんでした。
この法則を知らないと、2番目や3番目の商品をさらに伸ばす、または1や2にランクされた売れない商品をなんとか売れるようにする、ということに意識がいってしまいがちです。これは一度理屈で説明しても、自分で体感しないとなかなか身につかないところだと思います。集客のための告知の場合も同じです。
最初にある商材で告知をしたら、次はどうするか。ほとんどのケースで、目先を変えるために他の商材を使う、という発想をしてしまうのです。でも再度、売り上げトップの商材を使う方が概してレスポンスは上がります。
商品のランキングは実は2つあります。金額ランキングと数量ランキングです。この2つのランキングを見ることが大切です。金額はそのまま売上高に直結するので大切なのは分かりますが、もう一方の数量ランキングはなぜ大切なのでしょう。
それは客数、特に成長に欠かせない新客数に大きく影響するからです。中には金額はそこまで大きくないが、圧倒的に数量が売れている商品もあります。それは紛れもなく最も多くの顧客が支持して購入した商品ですから、とても重要であることは間違いありません。
金額だけ見ているとどうしても単価の高い商品を売りたくなります。数は少なくとも金額への貢献が大きいからです。しかしそれでは客数は減りにぎわいがなくなります。それが続くと顧客数が減少し縮小均衡に陥ってしまいます。成長には客数増が欠かせません。両方のランキングを活用することが大切なのです。
さらに最も大事なポイントがあります。それは「金額・数量とも一番になる商品があるとき、売上高は最高になる」ということです。私の経験でもこの商品が出たときのカタログは記録的な売り上げを計上しました。一冊で1000品以上を販売しているのに、たった1品で売り上げが大きく変わってしまうのです。これも必ず覚えておいていただきたい法則です。しかしこれもまた体感的にはなかなか理解しにくいかもしれません。
図ではケース1は4品がほぼ同じくらい売れている状態、ケース2はナンバーワン商品(#1)だけ突出して売れている状態。さてどちらのケースの方が総売上は大きいでしょうか。こう聞くとだいたい直感的にはケース1だと思うはずです。でも実際はケース2なのです。
思い当たることがあるのではないでしょうか。ミュージシャンがアルバムを出すとき、全てそこそこの出来であるよりも、他はダメだけど1曲だけ飛びぬけていい、というアルバムの方が売れるはずです。この「飛びぬけた」を具体的に表現したのが「金額・数量ともに一番」ということなのです。ここで起きているのは「2番以降の商品が全て同じでも、一番の商品がより強くなると、それ以外の商品の売り上げも上がる」という現象です。たった1つの商品を強化することで、全体の商品力を上げることができてしまうのです。
ある商品が長く企業やブランドを牽引している場合、それをアイコン商品と表現します。ブランドを代表する商品であり売り上げと利益の源泉になっている商品を指します。エルメスのケリーバッグ、ナイキのエアジョーダン、アップルのiPhoneなど枚挙にいとまがありません。
私の在籍したロクシタンでもシアハンドクリームというまさにアイコンといえる強力な商品がありました。この商品を改めて大事にしたことは言うまでもありません。金額と個数でともにナンバーワンになる商品を作ることを目標とすること。そしてそれが実現したらアイコン商品として長く貢献できるようさらに大事に育てていくこと。このことが商品力を強くするうえで一番大事なことなのです。
企業の成長は、圧倒的に強い商品が出ることから始まることも多いです。それまでには多くの試行錯誤や苦い失敗もあったことでしょう。だから一度つかんだこの成功体験は最大限に生かすことを考えるべきです。
第一はその商品を継続的に売ることです。これはとても大事です。最も売れている商品をやめることはないだろうと思いますが、一旦業績が良くなると何でも売れるので、さらに新しい商品を出すことにばかり気が行ってしまうものです。
私の在籍した企業でも商品ランキングを重視していましたが、成功要因の一つはランキング上位の商品は必ず継続すること、というルールを作ったことにありました。春夏のベストセラーはそのまま来年の春夏に継続する、ということです。
しかし商品はファッションアパレルです。普通は前年に流行った商品が売れるとは常識的に考えられもしませんでした。しかしデータは噓をつかなかったのです。新製品といってももちろん全部売れるわけではありません。新製品が当たる確率よりも、たとえ前年であっても実績のある商品がまた売れる確率の方が高い、ということだったのです。
ではどうなったら継続して、いつまで続けるのか。例えば「金額・個数とも上位10%に入った商品は必ず継続販売する」といったルールを設けること。これであれば確実に売り上げを底支えするとともに商品の新鮮さも維持することができるでしょう。
その後在籍した服飾雑貨の企業でも毎シーズン素晴らしいデザインを出す一方で、よく売れているデザインが非継続になることもありました。それはもったいないので、ベストセラー柄の継続のルールを設定したところ、期待通り成果を上げることができました。
こうやって継続して売れ続けた商品は定番商品となります。ここで気を付けるべきなのは、マイナーチェンジの内容です。少し新味をつけて再度売り上げに勢いをつけたい、ということで行われるのがマイナーチェンジです。売り上げランキングが低い商品は、いくら手を加えてもその労力に対しての成果は限られています。しかしベストセラーなら、成果が出ればもともとの売り上げが大きいので成果もより大きくなります。
ただし、その内容が本当に価値を高めるものかどうかは慎重に見極める必要があります。単に見た目を変えたくらいでは、本来の良さのバランスが崩れる危惧もあり、かえって逆効果になりかねません。必ず何か新しい価値を付け加えることが必要です。定番商品の改良には新商品の開発と同等以上に大きな力を入れる価値があるのです。
強い定番商品を生み出して事業が成長しているときこそ、次の定番を生み出す努力が必要です。定番が強いほど、努力しなくても売れるのでそれに安住してしまうのです。そのうちに顧客が高齢化して売り上げが停滞すると、にわかに若返りを図らなければ、となるのですが、そうなってから手を付けたのでは遅いのです。
既存客だけ見ていると、トレンドには感度が鈍くなります。既存客にとってはトレンドよりブランドの方が大事だからです。ルイ・ヴィトンというブランドは長い間人気を誇っています。伝統的なモノグラムという柄が100年以上続くアイコン商品です。しかし人気が続く秘密は定期的に新しい定番商品を生み続けていることです。その時々の新しいマーケットのニーズに応えて、今日まで新たな顧客を作ってきています。だからといって旧来の顧客が離れるわけではなく、定番もきちんと進化を遂げています。強さには理由があるのです。
ナンバーワン商品の使い方としては、意図的に採算度外視でナンバーワン商品を作るという考え方もあります。この採算度外視の目玉商品をロスリーダーと言い、昔から例に挙げられるのがスーパーのチラシに載せ店頭で極端に安売りする卵です。まず他店に負けない集客を実現するため誰もが必ず買う卵を採算度外視で売る。そこで集客が増えれば他の商品を買ってもらうことで結果的にはプラスになるという考え方です。
私の通販会社の経験でも似たような戦略はありました。利益はゼロでよいかわりに他商品より圧倒的に低い値付けをした商品を企画するのです。これは「オーダースターター」と呼ばれ、カタログが届いた人が何を買おうか悩む前に購入を決めてもらうという目的です。絶対的に低い価格であることが必要です。
1つ買うものを決めたら、次の商品を買う確率は跳ね上がります。ただしこれは商品戦略ではなく、販売促進として行うべきものです。通常の商品でこれをやってしまうと、もともと売りたい値段ではもはや売れなくなってしまうので、注意が必要です。
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