“沖縄県民は自転車に乗らない”常識を覆し、シェアサイクルが急成長 極度の車社会で、なぜ?(2/2 ページ)

» 2025年06月23日 06時00分 公開
[長嶺真輝ITmedia]
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強烈な台風、日差し……沖縄特有の難しさに試行錯誤

 一方、事業展開する上では沖縄特有の難しさもあり、試行錯誤の繰り返しだった。

 離島県である沖縄は“台風銀座”と称されるほど台風の襲来が多く、勢力も強い。そのため、当初は接近する度、直撃の前にステーションを回って駐輪設備と自転車を全て回収していた。現在は管理する規模が拡大したこともあり、台風の勢力に合わせて、「鉄製ワイヤーで自転車をステーションに縛り付ける」「自転車のみ回収」「ステーションごと全て回収」など、段階を作ってその都度対応を判断している。

 潮風にさらされ、塩害によって自転車の鉄部分が腐食するリスクもある。亜熱帯気候で日差しも強い。より細やかなメンテナンス体制を整えるため、2024年末には本社敷地内にプレハブの管理拠点を新設した。整備士が一人常駐し、より長く使用するための錆落とし、オイル差し、修理、清掃などを行う。

 拠点内にコンセントを多く設置したことで一度に充電できるバッテリーの量も格段に増えた。遠隔で全てのバッテリー残量を把握しており、IT技術も合わせて効率化を進めている。

新設したメンテナンス拠点では、自転車を1台ずつ丁寧に整備している

 地域性に合った工夫を積み重ね、稼働状況は2025年3月時点で駐輪ステーション数が約180拠点、自転車台数が約530台にまで増えた。事業開始から5年半で規模は順調に拡大している。プロ野球キャンプや大規模な祭り会場などに臨時ステーションを設置する取り組みも始め、効果を出しているという。

 2024年2月に「HELLO CYCLING」を運営するOpen Streetが発表した資料によると、都道府県別の会員登録エリアランキング(集計期間:2023年4〜12月)で沖縄は9位。前述した2021年の1世帯当たりの自転車保有台数が全国46番目だったことを考えれば、明らかに交通インフラの一つとして地域に浸透し始めている。

 一方、事業の収益性という観点で見ると「まだまだ投資の側面が強いです」と言う。稼働するボリュームの大きさと密度の高さが物を言うため、今後3年以内にステーション数を300カ所、自転車数を1000台に増やすことを目標に掲げる。収益性が向上すれば、稼働エリアの拡大も見据えているという。

街中を颯爽と駆ける平良さん。「自転車に乗る文化を沖縄に根付かせたい」と意気込む

 「これからは学生の通学利用にも、もっとアプローチしていきたいと考えています。行政による自転車専用道の整備も増えるといいですね。短期間でいきなり交通渋滞をなくすこということはもちろん難しいですが、『自転車に乗る』という文化を地域に根付かせていき、沖縄が抱える課題の解決に少しでも貢献したいと思っています」

 沖縄の人は自転車に乗らない──。常識を覆す壮大な挑戦は、まだ緒に就いたばかり。新たな文化を作るべく、走り続ける。

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