マーケティング・シンカ論

「俺、今日12時間ここにいるよ」 エスコンが破壊した野球場の既成概念2023年、話題になった「あれ」どうなった?(1/4 ページ)

» 2023年12月28日 07時30分 公開
[大村果歩ITmedia]

 あくまで「野球ファンのための場所」だった野球場の概念が、今大きく変わろうとしている――。

 2023年3月、北海道北広島市に北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」(以下、エスコン)が開業した。新球場を含む複合施設「北海道ボールパークFビレッジ」(以下、Fビレッジ)として、北広島市を盛り上げている。

 スタジアムを見渡せる飲食店エリア「七つ星横丁」をはじめ、サウナ施設やアスレチックなどが出店。「野球観戦」だけではないニーズに応え、開業から11月末までの来場者数は340万人を記録している。

 特徴的なのは、全体の40%は「試合がない日」の来場者であること。エスコンには365日常に来てもらえる工夫が随所に施されている。

エスコン 2023年3月、北広島市に開業したFビレッジ(c)H.N.F.

 「野球界をさらに盛り上げるためには、野球だけではない、今までとは違うアプローチも必要だと考えました」

 そう語るのは、ファイターズ スポーツ&エンターテイメント コンシューマー統括部の伊藤直也部長だ。今回はエスコンの、これまでの野球場の常識を変えたさまざまな新しい取り組みを取材した。

運が良ければ「練習する選手が見れる」!? さまざまな工夫

 エスコンは単なる野球場ではない。レストランやサウナ、多様なアクティビティー、ホテルなどを展開している。

 10の飲食店が並ぶ「七つ星横丁」は、これまでの球場・スタジアムには無かった、試合終了後も飲んで食べて語らえる場だ。フィールドを一望できる開放的な座席を用意するクラフトビール専門店なども出店し、飲みながらカジュアルに試合観戦できる。

エスコン 「七つ星横丁」(c)H.N.F.

 フィールドを一望できる球場内天然温泉とサウナ「tower eleven onsen & sauna」も話題を集めた。サウナ室から“ととのいながら”観戦する、他にはないエンタメ体験を提供する。

  他にも「F VILLAGE ADVENTURE PARK」「リポビタンキッズ プレイロット バイ ボーネルンド」など、子どもが遊べる施設も充実している。

エスコン アドベンチャーパーク(c)H.N.F.

 これらの、一見野球には関係ないさまざまな施設をたくさん用意した背景には、野球界を盛り上げるためのエスコンならではの戦略がある。

 「野球人気はこれまで、野球を実際に体験したことがある経験者を中心に支えられてきました。実際、ファイターズのファン層も40〜50代が多くなっています。

 しかし、昨今の少子高齢化にひも付いて、野球をする人が減っています。今後の野球界を盛り上げるためには、野球だけではない、今までとは違うアプローチが必要だと考えました。野球とは違うタッチポイントを作り、観戦目的ではない方にも来場する理由を持ってもらえる施設を目指しました」

 実際の来場者は10〜30代も多く、ファイターズファンに依存していないことが分かる。サウナは20代、子ども向け施設は30代など、施設ごとに異なる年齢層の来場者を獲得することに成功した。

エスコン サウナから球場が見渡せる(c)H.N.F.

 野球以外のコンテンツを目的にする来場者が、野球に興味を持つための導線作りも工夫する。

 試合がない日は外野を無料で開放。ふらっと立ち寄った人が、球場の中で芝の香りを感じながら、食事やビールを楽しめるようにした。

 「外観だけを見て終わりではなく、多くの方に実際に足を踏み入れ、球場の雰囲気を体感していただきたいと考えました。運が良ければ、選手の個人練習の様子が見れることもあります。

 お客さまからはよく『開放感』『非日常感』を感じると言っていただけます。これらは休場の中に入るとより感じられる要素です。多くのお客さまに気軽に球場に入っていただけておりうれしいですね」

エスコン 試合がない日も外野を開放(c)H.N.F.
       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.