サイゼの「300円ドリア」はいつまで続く? “デフレの申し子”が直面する試練と選択(7/7 ページ)

» 2025年06月27日 09時03分 公開
[草刈貴弘ITmedia]
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「選ばれる値上げ」による利益率改善がカギ

 成長戦略のもう1つの柱は、日本国内における価格戦略の見直しです。

 現在、サイゼリヤの1人当たりの客単価は858円。主要なファミリーレストランチェーンが1000円前後であることと比べると、1〜2割ほど安い水準となっています。この価格差を踏まえると、仮に5%程度の値上げを実施しても、依然として「お得な店」というイメージを保つことは可能です。

客単価は上がっているものの、他のファミレスに比べて低い

 実際、しまむらなどの企業も段階的に値上げしながら、「競合他社と比べると割安」というポジションを維持して消費者の支持を得ています。サイゼリヤも同様に、適切なタイミングと価格設定によって値上げを行うことで、顧客離れを抑えながら利益率の改善を実現できると考えられます。

 日本国内の営業利益率は現在2%未満にとどまっていますが、5%程度の値上げによって売上高に対する変動費率が改善すれば、3〜4%程度まで回復する可能性があります。今後も食材費や人件費、水道光熱費の上昇が続くと予想される中で、収益構造を維持・改善するためには、戦略的な価格改定や値上げが必要になるでしょう。

 「常に安い店」というブランドイメージは、価格を据え置き続けることを意味するわけではありません。重要なのは、競合他社と比べて相対的に安いと感じられる水準を保ちながら、企業としての持続可能性を確保することだと、私は考えています。

バッファローモッツァレラのマルゲリータピザ(400円)
ハンバーグステーキ(400円)

 サイゼリヤは、圧倒的なコスト競争力を背景に、他社よりも控えめな値上げであっても十分な利益改善が見込めるという強みを持っています。今後の経営では、「どのタイミングで、どの程度の価格改定を行うか」が大きな焦点となるでしょう。

 物価高が続き、本当の意味で“お買い得”とされる企業が選ばれる現在。科学的経営によって築かれた競争力を武器に、サイゼリヤがどのような戦略を取り、消費者の支持を集め続けていくのか。今後の戦略に注目したいと思います。

カタリスト投資顧問株式会社 取締役共同社長/ポートフォリオ・マネージャー

草刈 貴弘

 大学卒業後、舞台役者などを経て2007年にSBIリアルマーケティングに入社。2008年にさわかみ投信に転じ、顧客対応部門、バックオフィスの責任者、アナリスト、ファンドマネージャーを経験し、2013年に最高投資責任者、運用調査部長、2015年取締役最高投資責任者に就任。2023年3月に現職のカタリスト投資顧問に入社し、同年6月に取締役共同社長に就任。

 投資先企業の企業価値向上に直接寄与することで、日本企業の成長と資本市場の活性化と、個人投資家の財産づくりを両立することを志向する。ファンダメンタル分析を基にしたバリュー投資を軸に、持続的成長の転換点を探るのをモットーとする。現在、朝日インテック社外取締役。東洋大学理工学部卒。


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