企業のソーシャル・キャピタルは米国で発展した概念ですが、高度成長期の日本企業をモデルにしたといわれています。かつて日本の職場には「人がつながる」“空間”と“機会”が存在しました。
例えばオフィスの給湯室。給湯室といえば、お茶を入れながら、うわさ話や上司の悪口を言う若い女性社員をイメージする人が多いと思います。そこは人と人をつなぐ空間として大いに役立っていました。
ひと仕事終わってから、「ちょっと一杯いきますか?」という飲酒文化は、高度成長期の日本人が元気な理由の一つとして考えられました。当時、働きバチといわれた日本人がなぜ元気で、心の病になる労働者が少ないのかを調べた欧米の研究者には「飲みニケーション」を挙げる人も多かったほどです。
飲みニケーションだけではありません。社員運動会や社員旅行といったイベントも、つながりへの投資です。しかし、ネガティブな側面もありましたし、無駄といえば無駄ですから、2000年代以降は中止する企業が相次ぎました。
ところが、最近は復活させる企業も増えています。ただし、昔のように仕事外のイベントではなく、仕事として主催する幹事や担当者を任命し、仕事の時間に、ときには残業代をつけるなどして実施しています。
私はそういった企業の社員をインタビューしてきましたがおおむね好評です。若い社員から「またやりたい」という声をたくさん聞きましたし、「職場では見られない部下たちの側面を知れてマネジメントしやすくなった」と話す管理職もいました。
若い社員も、ベテラン社員も「同じ会社の仲間」として、つまり「COMPANY=共にパンを食べる仲間」としてつながることで「自分だけ穴の中に落ちていく感覚」にさいなまれる社員を減らせることが期待できます。まずは「半径3メートル世界」のメンバーに、「おはようございます!」と声をかけることから始めてください。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) など。
新刊『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)発売中。
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