人によって異なるモデルが出てくるということは、「正解がない」ということを同時に示しています。「問いに対して『正解』を出す」のではなく、「自分なりの意味を立ち上げる」ことに価値を置いているのが、LSPの面白さです。
組織やチームで議論をしていると、つい「最適解」を探しにいってしまうことがあります。効率良く、誰もが納得する答えを出したい。けれど現実には、誰かの違和感を置き去りにしたまま話が進んでしまう。そんな場面も少なくありません。
例えば、LSPで「今のチームの課題を表現してください」という問いを出したとします。そこに「これが正しい答えです」といえる人は誰もいないでしょう。むしろ、その問いに対して一人一人が自分なりに意味を感じ、レゴでモデルを組み立ててその理由を語る。このプロセスこそが「意味を紡ぎ出す力」を引き出す、LSPの本質なのです。
与えられた問いに対して、自分の経験や立場、価値観を基に意味を編み出していく。思考の内側にあった「言葉にならないモヤモヤ」が、手を動かすことで形になり、語りながら他者と共有されていく。その瞬間に生まれる「自分の考えが、自分の手を通して立ち上がった」という実感は、とても自分らしくリアルで、同時にチームにとっても価値のあるものです。
さらに、対話の中で他の人のレゴ作品や言葉に触れることで、自分が組み立てた意味が揺さぶられることがあります。「え、それはどういうこと?」と聞かれて、「あれ、自分はなぜそう思ったんだっけ?」と立ち止まる。こうした「意味を作り直す」プロセスもLSPでは自然と起こっていきます。
意味を紡ぎ出す、作り直す、というと難しく聞こえるかもしれませんが、「自分の解釈を持って意見や考えを述べる・練り直す」くらいに捉えると分かりやすいと思います。先ほど触れたように、議論を進めていると各々の意思よりも「正解っぽい何か」「正しそうな何か」に向かって収束していってしまうことは少なくありません。LSPの一連のプロセスである、意味を立ち上げ、他者と交わし、揺らぎながら再構成していくプロセスは、チームに次のような変化をもたらすでしょう。
LSPは「答えを出す場」ではなく、「問いの中に“意味”を見出し、それを育てていく場」と考えてもいいでしょう。答えのない問いに向き合いながら、意味を編み出し、時に書き換えていく。その過程で、人と人との間に信頼が生まれ、チームの未来が少しずつ形を作り出していくのです。
LSPを終えた参加者からは「これまでちゃんと話そうとして空回りしていたけれど、レゴを使うと自然とちゃんと聞こうと思えた」という声を聞くことがあります。
LSPは、表現(モデル構築)、対話(ストーリーテリング)、内省(意味の発見)を循環させることで、コミュニケーションの質を変えます。「うまく伝える」ことよりも、「相手の世界を感じる」「違いの中に留まる」「好奇心を持って問いかける」姿勢が重要です。組織に必要なのは、全員が同じであることではなく、「違ってもいい」と思える心理的な安全性と、現状に甘んじることなく「問い続けられる」文化ではないでしょうか。
LSPは、組織開発における「万能薬」ではありませんが、心理的安全性や「問い」を武器にするチームを作りたいならば、強力な触媒となるでしょう。言葉だけでは到達できない深層心理や暗黙知を「かたち」にし、遊び(Play)の要素を取り入れながらも本気で(Seriously)対話し、未来を共創していく。それは組織やチームが「分かり合えなさ」を乗り越え、新たな可能性へと向かうための、具体的でパワフルな一歩となるはずです。
「1on1をすれば大丈夫」は間違い 若手の心理的安全性を高める“3つの説明”
「心理的安全性」は自ら高める “あの人”が周囲と軋轢ばかり抱える理由
「心理的安全性」におびえる上司が今すぐ見直すべきコト
企業風土は「会議」に表れる 本音を話せるミーティングをつくるためのルールCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング