視点を変え、ナイキが苦しむ一方で国産の2ブランドが業績好調なのはどのような理由なのでしょうか。
アシックスは「オニツカタイガー」ブランドが絶好調で、2024年12月期の売上高は954億円と、直近5年間でおよそ2倍に拡大しています。創業者の鬼塚喜八郎氏に由来するブランドを起点に、アシックスの世界ブランド展開をさらに進め、2030年には売上高1兆円を目指しています。
アシックス本体では「パフォーマンスランニング」という、ランニングシューズを主力商品に据えたカテゴリーの売り上げを伸ばしています。高付加価値商品に力を入れ、北米のランニング専門店でのシェアも2023年度から2倍ほどの19.5%に高めています。2025年に東京で開催予定の世界陸上でも高反発の商品をデビューさせる予定で、世界での販売網を順調に拡大しています。
同社の売り上げのうち海外比率はすでに80%を超えており、オニツカタイガーでファッションブランド的なイメージを作りつつも、軸はランニングシューズであるという点はブレていません。これが成長の一大要因となっています。
一方のミズノは海外売上比率が38.7%とアシックスほど高くありませんが、年々比率を上げており、特にブラジルや中国が好調です。商品カテゴリーではフットウェアとアパレルが好調で、競技スポーツ向け商品を軸に売り上げを伸ばし、ファッションにも使えるスポーツスタイルの高機能シューズを投入し、女性や若年層などの新規客を獲得しています。
このようにアディダス、アシックス、ミズノの3社は、あくまでも「アスリートのためのスポーツブランド」という立ち位置からブレておらず、フットウェア商品を軸にして自社商品の機能性に磨きをかけて、高付加価値商品を生み出す戦略をベースにした上で、ライフスタイル、ファッション商品を付加しています。
一方のナイキは「ライフスタイルブランドとしてのナイキ」が前に出すぎた感があります。ナイキ本来の強みだった「アスリートに寄り添うスポーツブランド」というイメージが薄れ、ファッションイメージに偏り過ぎてしまったこと、同時にナイキが持っている本来の商品力の強さが見えづらくなってしまったことが、苦戦の理由と考えられます。
ナイキは今こそ、ロゴマークに込めた意味とともに、競合の原点主義を参考にしつつ、世界で支持を受けてきたブランド価値に立ち返るべきではないでしょうか。小学生のときからナイキの靴を履いてきた筆者は、再浮上に期待しています。
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。直近では著書『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本[第5版]』を刊行した。
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