プロ野球で断トツ320億円! なぜ、福岡ソフトバンクホークスは儲かっているのか

» 2022年10月03日 12時20分 公開

 前回「コロナ禍最盛期でも売上高1000億円超え 欧州主要クラブとの比較で見えたJリーグの特徴と課題」では、世界最高峰の欧州サッカーリーグの主要クラブの財務状況を見てみました。

 前回記事で紹介した英デロイトが毎年発行している、欧州主要クラブの経営状況をまとめた「フットボールマネーリーグ」(FML)によると、コロナ禍ピーク時でも、No.1クラブは年間の売り上げが1000億円を超えていることが分かります。

photo 巨額マネーが動くサッカー(提供:ゲッティイメージズ)

 コロナ前に営業売り上げでJリーグ史上最高を記録したヴィッセル神戸が114億円ですから、コロナの影響にも関わらず、約10倍もの差があるのが現状です。

photo ヴィッセル神戸の選手(出典:DAZN公式Webサイト)

 では、欧州サッカーは、日本スポーツビジネスには手の届かないところにあるのでしょうか。必ずしもそうとは言えません。日本国内のスポーツビジネスの売上規模において、日本トップは「プロ野球」とされています。記事では2回に分けて、プロ野球のビジネスモデルについて考察します。

アジアスポーツ史上最高の売り上げを稼ぐ「福岡ソフトバンクホークス」

 プロ野球球団の中でも、断トツの売り上げを誇るのが、パ・リーグの常勝軍団「福岡ソフトバンクホークス」(以下ソフトバンク)です。スタジアム内(野球の成績)でも、スタジアム外(スポーツビジネス=売上規模)でも、群を抜いています。

photo 福岡ソフトバンクホークスの選手(出典:DAZN公式Webサイト)

 コロナ前の2020年2月期決算での売上高は、324億9300万円。この金額は、日本どころかアジアのスポーツビジネス史上で最高の数値であり、ソフトバンクは“アジア最強のスポーツチーム”なのです。

 ちなみに、324億9300万円(=当時のレートで約2億3800万ユーロ)を、コロナ前の「Football Money League2020」に当てはめると、世界のサッカークラブの16位に匹敵します。

 当時の順位を見ると、ASローマ(2億3100万ユーロ)や、元アルゼンチン代表のレジェンドプレイヤーである故ディエゴ・マラドーナさんが在籍したナポリ(2億704万ユーロ、ともに伊セリエA)よりも、売上規模が大きいのです。

photo ASローマ並みの売り上げを持つソフトバンクホークス

「福岡ソフトバンクホークス」売上割合

では、ソフトバンクの売上構成はどうなっているのでしょうか。前述のFMLの収入分別を参考に分析すると、下記の通りとなりました。

マッチデー収入(チケット、グッズ、飲食&ホスピタリティー):47%

放映権:9%

コマーシャル(スポンサーシップやライセンシングなど):44%

photo 収益構造のイメージ

 先述した通り、Jリーグ史上最高益がコロナ前のヴィッセル神戸の114億円ですから、ソフトバンクホークスが、マッチデー収入に含まれる「グッズや飲食(VIPホスピタリティー込)」だけで、約60億円も稼いでいるのは、驚愕と言えるでしょう。

photo ソフトバンクホークスのショップ(提供:ゲッティイメージズ)

経営陣もプロ集団

 では、「失われた30年」とも言われる厳しい経済状況でスポーツビジネスも厳しい中、なぜソフトバンクは、驚愕の売り上げを上げられるのでしょうか。理由はいろいろあると思いますが、大きく3つに集約されるかと思います。

 要因の1つが、球団の経営陣が「タレント集団」という点です。球団社長を見ると分かりますが、ソフトバンクホークスは、日本やアジアのスポーツビジネスにおける随一のタレント集団です。

 後藤芳光社長は、なんと、ソフトバンクグループ(SBG)のCFO(最高財務責任者)です。大企業を親会社に持つJリーグがいい例ですが、クラブの社長として送られてくるのは、親会社からのトップ級経営者ではなく、すでに役目が終わりに近い人が多いのが現状です。

photo SBGのCFOも務める後藤芳光社長(出典:SBG公式Webサイト)

 これに対し、後藤社長はお飾りではない実質の社長です。筆者はとある「スポーツビジネス大賞」選考委員を務めており、大賞発表イベントの際に、後藤社長をお招きしたのですが、実際に参加してくださり、ソフトバンクホークス経営を熟知する自らのお言葉でスピーチをされ、偉く感心したのを覚えています。

 ビジネスのトップを極めた経営者がトップを務めており、ビジネスにおける「ヒト・モノ・カネ・情報」の重要性を熟知されているため、アジアや日本のスポーツビジネスの中でも球団職員もタレントぞろいです。ヒト、モノ、カネ、情報はビジネスの肝ですので、「いい人(=タレント)」がそろったソフトバンクホークスのスポーツビジネスが圧倒的実績を出すのにも驚きはありません。

 ソフトバンクホークスはタレントぞろいという質だけでなく、量も兼ね備えています。象徴的なものとして、営業体制が挙げられます。営業担当者数は、なんと約50人。筆者は、欧州サッカーだけでなく、アジア・スポーツビジネスにも精通していますが、覚えている限り、50人の精鋭を揃えた営業チームを抱えるスポーツチームは、少なくともアジアには存在しませんでした。

 次回は、残りの要因である「スタジアム経営」と「マーケティング戦略」について掘り下げて解説したいと思います。

photo ソフトバンクホークスの本拠地「PayPayドーム」(出典:PayPay公式Webサイト)

書き手:岡部 恭英(おかべ・やすひで)

UEFA(欧州サッカー連盟)専属マーケティング代理店「TEAMマーケティング」シニアバイスプレジデントAPAC(アジア・パシフィック)代表。

1972年大阪府生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後の96年太知に入社。東南アジアや米国シリコンバレー勤務でエレクトロニクスやIT関連ビジネスに関わった。2006年英ケンブリッジ大学院でMBA取得後、TEAMマーケティング入社。欧州CLに関わる初のアジア人として、ヨーロッパ、中東北アフリカ、アジア地域での放映権やスポンサーシップビジネスに従事。21年から現職。スイス在住。

他にもJリーグアドバイザー、NewsPicksプロピッカー、日本スポーツビジネス大賞審査委員、Boardwalk顧問、Halftimeアドバイザーなど。慶大体育会ソッカー部出身。

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