バフェットは否定的? 株式分割が抱える「見えないコスト」(2/3 ページ)

» 2025年07月29日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

見逃されがちなコスト

 株式分割には投資家の利便性向上というメリットがある一方で、実務上のデメリットも存在する。

 例えば、株主が1人増えるごとに、証券会社や信託銀行は名義書換や単元株の管理、株主総会資料や配当通知の送付など、一定の事務作業と費用を負担する必要がある。2011年に東京証券取引所が実施した調査によれば、個人株主1人当たりの年間の追加管理コストは平均1500円程度と試算されている。

 仮に1株1500円の銘柄を1株だけ保有するようなケースでは、投資家が投じた金額とほぼ同額のコストが企業側に発生する可能性もある。株式の売買代金が企業に直接入るわけではない以上、こうした事務コストは企業にとって実質的な負担となり、他の株主の利益を希釈させる恐れもある。

 こうした非効率を避けるため、米国では多くの有力企業が株式分割を控える傾向にある。日本でも、近年ではみずほフィナンシャルグループや双日、オリエントコーポレーションなどが、5株や10株を1株にまとめる「株式併合」を採用している。

 バフェット氏率いる投資会社、米バークシャー・ハサウェイは、現在も「A株」を1株72万ドル(約1億円超)という高価格で維持しており、創業以来一度も株式分割を行っていない。A株は議決権が強く、経営への影響力を重視する投資家向けに発行された株式である。価格の高さには、安易な売買を抑え、長期保有志向の強い株主層を育てるという目的があるとされる。ちなみにA株の1万分の1の議決権を持つ「B株」は、A株の1500分の1程度の価格で取引されている。

投資信託で広がる間接保有

 株式分割の意義が薄れつつある背景には、投資手段の多様化もある。

 米国ではETFや投資信託が個人投資家に広く浸透しており、例えばS&P500やナスダック100に連動するETFを購入すれば、アマゾンやグーグルのような高額株にも間接的に投資することができる。つまり、株式分割を行わなくても、投資家のアクセスを確保する手段が整っているのだ。

 日本でも、「つみたてNISA」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の普及により、投資信託を通じた分散投資が広がっている。例えば楽天証券やSBI証券などが提供するファンドは、月100円から投資が可能であり、個別株よりもはるかにハードルが低い。

NISAに関連するサービスでは、小額から投資できるものも存在する(ゲッティイメージズ)

 このような状況を踏まえれば、企業側が株式分割によって最低投資額を引き下げるという方法は、かつてほど有効な施策ではなくなっているといえる。ただし、個別株への投資ニーズが依然として一定の層に存在することを考えると、株式分割を全面的に否定するものではない。重要なのは、目的と手段のバランスである。

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