自民党も今回の参院選を前に、郵便局網の維持に650億円の公的資金を充て、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の民営化を先送りする改正法案を了承し、全特の集票への期待感を露わにしています。
この全特が「政府=自民党」の集票役として存在することで、抜本的改革を先延ばしし続けているという構図、これこそが組織改革=組織近代化を阻む最大のネックになっていると考えます。通常の民間金融機関で、もし支店長たちが私的団体を立ち上げて特定の政党の集票活動をしたならば、経営はそれを黙っていないでしょう。公共性を帯びた機関として社会的な批判も免れ得ないはずです。
このような一般的には奇異に映る全特の政治活動が風習的に脈々と続いている背景に、民営化以降「原則廃止」となっているはずの旧特定局長職の世襲が、暗黙裡に残っていることも見逃せません。
この事実こそが実は、本稿の本題であるコンプライアンス面において重大な影響を与えているのです。世襲の郵便局長には、原則転勤がありません。一般の民間金融機関では、現場での与信業務の有無にかかわらず、責任者である支店長は2〜3年周期で必ず異動があります。これは、顧客との癒着回避、業務遂行および店舗・人事管理における緊張感の欠如やたるみ防止の観点から実施されるのです。
全特局長のように店舗責任者の人事異動が半永久的にない状況下では、顧客との癒着や業務管理の緩みが必ず生まれます。保険販売の違反行為は顧客との近すぎる距離感がその根本原因にあると考えられ、不適切点呼問題は現場での業務管理の緩みが原因になっていることは間違いないのです。
このように見てくると、結局のところ日本郵政で続発する不祥事の根源は、国営時代から変わることのない旧態然とした組織構造にこそあることがよく分かります。そしてその近代化を意図的に阻んでいるものが、政治的な色合いの濃い全特の存在であることも同時に見えてくるのです。
今般日本郵政社長に就任した根岸一行氏は旧郵政省出身の官僚であり、時同じくして日本郵便社長にも旧郵政省出身の小池信也氏が就任しました。完全に民営化逆行といえる人事からは、組織構造改革への消極姿勢ムードが漂ってきます。株主総会での不祥事に対する大批判をよそに、再発防止に不可欠な対症療法ではない日本郵政の根本的改革は、まだまだ着手されそうにありません。
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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