フードデリバリー関係者の声を聞くと、その構造自体にも衰退の要因があるように感じる。
ウーバー配達員として実際に多くの配達をこなしながら、その現状を伝えている佐藤大輝氏はこう述べている。
「2025年6月、その日は雨だった。私は午後7時過ぎに、ウーバー配達員としての稼働を開始した。しかし、依頼が1件もこない。2時間ほど稼働したが、配達依頼はゼロ。1件当たり300〜500円ほどの報酬を積み上げていく配達員にとって、『デリバリー控え』は死活問題だ」 (佐藤氏)
この状況からも分かるように、依頼が減って稼げないために配達員のウーバー離れが加速し、サービスの使い勝手が悪くなることでユーザーも離れるといった「負の連鎖」が起きやすい構造となっている。佐藤氏が書いているのは、業界トップであるウーバーイーツでの事例だ。ウーバーでさえこのような状況であるならば、他社はより厳しいだろう。
また、フードデリバリーが都心偏重にならざるを得ないことも問題だ。これは、筆者が冒頭で書いたエピソードにつながる。
フードデリバリーはその性質上、人口が多く、配達員が配達しやすいエリアで、飲食店が集まっている地域で規模を拡大しやすい。特にウーバーが顕著だが、全国47都道府県でサービス展開しているとはいえ、配達エリアはその都道府県の中心エリアに限られていることが多い。
しかし、こうした都市部や中心部には多くの飲食店が集まっているため、フードデリバリーがなくても食べ物には困らない。そのため、都市部では「生活をより便利にしてくれるオプション」に過ぎないのだ。コロナ禍でフードデリバリー業界が急速に業績を伸ばしたにもかかわらず、その後衰退したのは、「単なるオプション」に過ぎなかったことの表れではないだろうか。
一方で、フードデリバリーの需要が高いと感じるのが、地方や郊外だ。こうした地域は車での移動が一般的で、ドライブスルーなどを利用する人も多い。しかし、車に乗るのが面倒なときや、体調不良で車の運転ができないときは、フードデリバリーを利用する可能性が高い。「歩いて近くの飲食店に行く」ことが、簡単にできる環境ではないためだ。しかし、こうした地域には飲食店が少なく、配達の依頼も少ないため、配達員が確保しづらい。その結果、フードデリバリーが利用しづらく、飲食に不便な場所のままとなる。
ウーバーをはじめとしたフードデリバリーが登場した際、「このサービスは生活のあり方を変える」という強い期待感があった。しかし、人やモノが密集していることを前提に成立するサービスであるため、潜在的にあった都心・郊外・地方の格差を際立たせる結果となったと、筆者は思う。もともと便利だった都会はさらに便利になり、郊外や地方は不便なままなのだ。
この構造的な問題こそが、フードデリバリー業界の停滞感を作っているように感じてならない。
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