トップ営業の「勝ちパターン」を“見える化” 会話解析AIで営業組織が強くなる理由「音声×AI」が変えるビジネスの未来

» 2025年08月18日 07時00分 公開
[松本佳樹ITmedia]

連載:「音声×AI」が変えるビジネスの未来

営業現場には、いまだ活用されていない「対面商談データ」が眠っている。オンライン会議の普及で録音・録画データを活用する機会が広がる一方、対面商談は今なお属人的な記憶やメモに頼る場面が多い。本連載では、最新の会話解析AIを活用し、対面の営業活動を可視化・構造化するアプローチを紹介。CRMやSFAとの連携による「営業DX」の最前線を、RevComm(東京都渋谷区)の松本佳樹氏が解説する。

 これまでの連載では、対面商談における「見過ごされてきたデータ」の価値、そしてそのデータをAIと、CRMやSFAに連携して活用することで、どのような効果があるのかを解説してきました。今回は、対面商談のデータをどのように企業の競争力強化につなげるのか解説します。

 長年、営業の現場は、個々の営業担当のスキルや経験に大きく依存してきました。特に、対面商談の場合は商談内容のブラックボックス化が起こりやすく、トップセールスのノウハウや成功事例が正しく共有されなかったり、顧客との認識齟齬や「言った言わない」といった問題が発生した際の事実確認が難しい点がありました。

 対面会話解析AIを活用することで、これまで「暗黙知」とされてきた情報を「形式知」へと転換し、営業組織全体の能力を向上させます。

対面商談のデータをいかに企業の競争力強化につなげるか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:松本 佳樹(まつもと・よしき)

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新卒でリクルートグループへ入社。エンジニア領域における人材紹介・派遣を担当。国内最大手の通信企業やネット広告代理店などのエンタープライズ領域の深耕営業から中小企業領域における新規開拓を通して、幅広い業界や業種へ人材サービスを提供。

その後、求人検索エンジンを運用するIndeed Japanに1年間従事した後、2020年よりRevCommのインサイドセールスグループ・BDR立ち上げメンバーとして参画。

2025年より対面会話解析AI「MiiTel RecPod」のプロダクトマーケティングマネージャーを担当する。


トップ営業のノウハウをデータで共有

 トップセールスの商談データは、まさに宝の山です。

 対面会話解析AIで彼らの商談を分析すると、どのような場面で、どのような言葉を使い、どのようなトーンで話すことで顧客の心を掴(つか)んでいるのかといった「話している内容」と「話し方」がデータとして可視化されます。

 例えば、顧客の課題を深掘りするための質問の仕方、反対意見に対する切り返し方、クロージング時の最後の一押しとなるような具体的な表現などが明確になります。

 これにより、これまで言語化されてこなかったトップセールスの「勝ちパターン」を形式知として抽出し、社内のナレッジとして共有できます。営業担当者は、これらのトップセールスのノウハウを具体的なデータに基づいて学ぶことで、自身の営業スキルを客観的に見つめ直し、効率的に改善できるようになります。結果として、組織全体の営業力の底上げと標準化が図られ、属人化に依存しない強い営業組織の構築につながります。

新人育成をデータで支援

 新人営業担当者の育成への活用にも効果的です。従来のOJTでは、先輩の商談に同行したり、ロールプレイングを繰り返し行うことが中心でしたが、先輩社員の経験に基づく属人的な指導になりがちでした。

 対面会話解析AIを活用すれば、新人の商談データを分析し、客観的なデータに基づいたフィードバックを提供できます。例えば、

  • 「顧客の予算に対する懸念点について、十分に払しょくするような切り返しができていないポイントがある」
  • 「ネクストアクションの設定や次回の打ち合わせ内容を明確にしないまま商談を終えている」
  • 「ヒアリングの時間が短く、製品の説明に長く時間を割いているので、顧客理解に必要な質問をもう少し投げかけた方がよい」

――といった具体的な改善点を指摘できるため、新人は自身の課題を明確に認識し、効率的にスキルアップできます。これにより、新人教育の質が向上し、一人前の営業担当者として独り立ちするまでの期間を大幅に短縮することが可能になります。

 また教育への活用は、教育担当者にもメリットがあります。指導者も、これまで自身が感覚的にやってきたことの伝え方に悩むこともあるでしょう。主観に基づいたフィードバックは指導を受ける側にとっても具体的な行動に落とし込めず、成果につながりにくく、結果として教育コストが高くなってしまうこともあります。

 指導者の考えをAIがサポートして言語化したり、音声データから客観的な事実や成功パターンを抽出し、それに基づいた数値を用いたフィードバックを可能にすることで、指導の質や効率も高めることができます。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

商談データを“経営の武器”に

 対面商談データの活用は、営業現場の改善だけにとどまりません。顧客の「生の声」がデータとして蓄積されることで、企業全体の経営戦略を高度化する貴重な情報資産となります。

「顧客の本音」を商品開発に反映

 商談データには、顧客からの要望、不満、期待、競合他社に対する評価など、顧客のリアルな声が詰まっています。これらの「生の声」をAIが分析することで、顧客が真に求めているニーズや、既存の商品・サービスの課題が浮き彫りになります。

 例えば「〇〇機能が不足している」「アフターサポートが不十分だ」といった具体的な声が頻繁に出てくるようであれば、それは商品開発やサービス改善の優先順位を決定する重要なインサイトとなります。営業部門だけでなく、商品開発部門やマーケティング部門がこれらのデータにアクセスし、顧客の声をダイレクトに反映させることで、より市場にフィットした競争力のある商品・サービスを迅速に生み出すことができるようになります。

市場や顧客ニーズの変化を早期にキャッチ

 商談データは、顧客の現状だけでなく、彼らが直面している課題や、将来的に必要となるであろうソリューションの兆しも捉えることができます。例えば、特定のキーワードの出現頻度の変化や、特定の業界の顧客から共通して聞かれる要望などから、市場の変化や新たなニーズの芽を察知できます。

 これらの情報をもとに、競合他社に先駆けて変化に対応し、新たな価値を創造することで、持続的な成長を実現するための競争優位性を確立できます。

「顧客資産」の活用

 顧客との対面商談で得られる情報は、これまでデータとして資産化されず、埋もれていました。対面会話解析AIの活用により対面商談の内容を企業独自のデータとして活用できるようになります。CRMやSFAと連携することで、顧客ごとの詳細なプロファイル、過去の購買履歴、商談での会話内容、感情の推移といった多角的な情報を集め、統合的に分析することで、顧客満足度を高めるための最適なアプローチを見いだすことができます。

導入・運用におけるポイント

 対面会話解析AIの導入・運用を成功させるためには、以下の点に留意することが重要です。

(1)目的の明確化

  何のために対面会話解析AIを導入するのか。営業力向上、顧客理解の深化、新人育成など、具体的な目的を明確にしましょう。

(2)現場への丁寧な説明と合意形成

 営業担当者によっては、オペレーションを変えることや、音声解析のために録音することに抵抗を持つかもしれません。「監視」ではなく「成長と支援のツール」であることを丁寧に説明し、理解と協力を得ることが不可欠です。全ての営業担当者や商談にいきなり適用するのではなく、一部のチームや商談から導入し、効果を検証しながら段階的に拡大していくのが良いでしょう。

(3)データ活用のリスク対策

 データ量が増えるほどセキュリティ対策は重要な課題となります。データの保管場所を慎重に選択し、漏洩(ろうえい)や悪用のリスクを防ぐ対策を講じる必要があります。また、個人情報の保護に関する法律を踏まえた音声データの活用に関するガイドラインの作成や従業員のリテラシー向上のための研修プログラムの実施も有効です。


 デジタル化が進む現代において、顧客とのタッチポイントはメールやチャット、電話、オンライン会議など多岐に渡ります。これからはAIの進化が進み、コミュニケーション相手がAIとなることもあるでしょう。

 その中でも対面でのコミュニケーションは、信頼関係を深めるうえで、ますます重要性を増していきます。対面会話解析AIは、この貴重なコミュニケーションから得られるデータを最大限に活用し、営業活動をデータドリブンなアプローチへと進化させます。

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