従業員退職による倒産、過去最多のペースに 待遇改善できず

» 2025年08月18日 07時00分 公開

 帝国データバンクが行った「従業員の退職を要因とした人手不足(従業員退職型)」の倒産発生状況調査によると、2025年1〜7月に判明した人手不足倒産のうち「従業員退職型」は74件で、前年同期(46件)から大幅に増加した。待遇を改善しないことによる「人材流出リスク」が、中小企業を中心に高まっている。

photo 帝国データバンクは、「従業員の退職を要因とした人手不足(従業員退職型)」の倒産発生状況の調査を行った(ゲッティイメージズ)
photo 「従業員退職型」倒産件数 推移(出所:プレスリリース)

 2025年1〜7月に判明した人手不足倒産は全251件。このうち従業員や経営幹部などの退職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」は、前年同期比約6割増と急増している。このペースが続けば、2024年の90件を大幅に上回り、初めて年間100件に達する見込みだ。

業種別にみると

 業種別では「サービス業」が最多で19件(構成比25.7%)となり、2013年以降の1〜7月期として過去最多を記録した。特に慢性的な人手不足が続くソフトウェア開発などのIT産業や、映像制作などで目立った。

 例えば、システム開発を手掛けていたピーシーネット(2025年1月破産)は、エンジニアの引き抜きや人材流出、それに伴う外注費増加で収益性が悪化し、最終的に事業継続を断念した。

 次に多かったのは「建設業」(17件)で、設計者や施工監理者など資格を持つ現場作業員や、営業担当役員など幹部社員の退職により、事業運営が困難になるケースが目立った。

 建売住宅販売のクレセントホーム(佐賀市、2025年5月破産)は、新代表の就任後に幹部社員が相次ぎ退職し、営業力や施工力の低下が倒産の一因となった。

 このほか、製造業、卸売業、トラック輸送を中心とする運輸・通信業でも、2025年1〜7月の累計で過去最多となった。従業員の退職が引き金となる経営悪化は幅広い業種に広がっている。

 また今回、十分な給与水準を維持できないことが要因の「賃上げ難倒産」も確認された。不動産仲介のウィルプライズ(東京、2025年4月破産)は、業績悪化に伴い給与を引き下げた結果、従業員の退職が相次ぎ、事業継続が困難となった。

 帝国データバンクは「賃上げによって優秀な人材を高給で確保する動きが広がるなか、待遇改善をしないことによる人材流出リスクが中小企業を中心に高まっている」と指摘。「十分な報酬を支払う余力のない中小零細企業の淘汰が、『従業員退職型』倒産として今後表面化する可能性がある」と分析した。

 本調査は、負債1000万円以上で法的整理による倒産を対象に、2013年1月〜2025年7月31日の期間に実施した。

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