排外主義の根底にある「貧困」――日本ペンクラブ、炎上覚悟で発した声明の意図は 桐野夏生会長に聞く(1/3 ページ)

» 2025年08月20日 08時00分 公開
[森川天喜ITmedia]

筆者プロフィール:森川 天喜(もりかわ あき)

旅行・鉄道作家、ジャーナリスト。日本ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)などがある。同書は日本旅行作家協会より第7回「旅の良書」に選出。2025年6月より神奈川新聞日曜版にて「かながわ鉄道英雄伝」連載開始。


 作家や編集者、ジャーナリストらで構成される日本ペンクラブは7月15日、「選挙活動に名を借りたデマに満ちた外国人への攻撃は私たちの社会を壊します」との緊急声明を発出した。

 日本ペンクラブはこれまでも、2017年には共謀罪強行採決に抗議する声明、2022年にはロシアのウクライナ侵攻に関する共同声明(日本文藝家協会、日本推理作家協会と連名)を出すなどしてきたが、今回、排外主義的言論に対する共同声明を発出するに至った経緯はどのようなものだったのか。

7月15日緊急声明発出時の記者会見の様子。左から中島京子常務理事、桐野夏生会長、山田健太副会長(日本ペンクラブ提供)

 2021年に会長に就任し、現在3期目を務める小説家の桐野夏生氏にSNS全盛の時代におけるペンクラブ活動の意義や情報発信のリスク、今後の執筆活動などについて話を聞いた。

桐野夏生(きりのなつお)。小説家。1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、99年『柔らかな頰』で直木賞、2023年『燕は戻ってこない』で毎日芸術賞と吉川英治文学賞、24年には日本芸術院賞を受賞。日本ペンクラブ第18代会長(筆者撮影)

日本ペンクラブ

1921年にロンドンで創設された国際的な作家の団体である国際ペン(PEN International)の要請を受け、作家の島崎藤村を初代会長に約100名の作家が集まり1935年に発足。「表現の自由に対するあらゆる形態の抑圧に反対する」といった国際ペン憲章の理念の下、活動を継続。作家のみならず詩人、劇作家、ジャーナリスト、編集者、研究者など正会員1166人、賛助会員41社(2025年3月末)が所属する。


深刻な状況、看過できず

 ――日本ペンクラブは、これまでもさまざまな声明を発出してきたが、今回の共同声明は、表現の自由を守るという活動趣旨に必ずしも直結しないようにも思われる。声明を出した経緯を教えてほしい。

 入管法をめぐる問題などについて執筆活動を行っている作家の中島京子さん(日本ペンクラブ常務理事)の発案により、声明を出すことになった。先の参院選(7月3日公示、20日投票)において、与野党を問わず一部の政党の主義主張の中に「違法外国人ゼロ」「日本人ファースト」「管理型外国人政策」など、排外主義的で外国人を犯罪者や社会の邪魔者扱いするようなものが見られ、それが拡散されていく状況に危機感を覚えたのが理由だ。

 これまでもヘイトスピーチの問題などはあったが、政党が選挙運動に乗じて堂々とそのポリシーとしてヘイト的な主張を行うという、より深刻な状況になったのを看過できなかった。中島さんのみならず、理事の多くが同様の思いを抱いていたと思う。

 一方で、排外主義と言っても、それも1つの意見・考えであると言われればそうかもしれず、難しい問題をはらんでいるとは思う。だが、戦争のない平和な世の中や、外国人を含む皆が平等に扱われるという前提があって、はじめて表現の自由が担保されることを思えば、今回の声明発出は日本ペンクラブの活動趣旨に合致する。

 ――参院選の期間中に声明を出すことで、日本ペンクラブが政治活動を行っていると誤解されるとの危惧はなかったか。

 今のタイミングで出すべきかという議論はあった。しかし、あまりにも目に余る状況だということでペンクラブとして声明を出した方がいいという結論になった。

 こうした声明の発出は、時宜を得ていることが重要だが、まさにこのタイミングで出すことに意義があった。オンライン会議が浸透したことで声明文の起草から理事会での討議、その後の記者会見での声明発出まで、非常にスムーズに進めることができた。

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